2008年04月17日

読書感想 グイン・サーガ 120

 グイン・サーガ120巻 『旅立つマリニア』 の感想です。
 マリニアってそっちのマリニアか!!
 すっかりケイロニア編だとばっかり思って、「どうしてマリニアが旅立っちゃうの?、もしかしてシルヴィアに追い出されるの?」とか、いろいろ妄想を膨らませていたのですが、いやぁなんだ、そうだったのね。
 そういや「湖畔のマリニア」があったんだから気づいても良かったのに、これはウカツでした。
 え、もしかして騙されたのって私だけ?(笑)。
 まぁいいや。感想いきましょう。

過去感想→115 , 116 , 117 , 118 , 119
外伝感想→21


ネタバレ注意!



 パロへのケイロニア部隊駐留が決定。
 なんというか、10年もすると「安保闘争」が起きたり「基地問題」が勃発したりしてパロ各地でデモが起きたりするんだろうなぁなんて妄想(笑)。
 パロは軍事面をケイロニアに任せることで、経済面のみに集中することができるわけで、まさに日本の戦後復興。
 きっと数年でかなりの復興をとげてくれることでしょうね。 


スーティについて

 記憶を失いながらもグインがフロリーを連れてゆくのかと思いきや、なんとグインには黙ってフロリー&スーティはヤガへ!
 フロリーの希望だし、ヴァレリウス側にとっては願ってもないし、ハゾスとしてもまっとうな政治的配慮……なんだろうけど、やっぱりスッキリ腑に落ちないものがある。
 それはやっぱり、みんながグインを騙しているような気がしてしまうからなんだろうなぁ〜。
 いやぁ、みんなの判断が正しいことは分かるんですが、それでも心情としてねぇ。
 あれだけグインがスーティを大切に思い、本気で自分の手元において手塩にかけて育てようと思っていただけに、今回の別れはとても胸に刺さるものがあります。
 今回のことはヴァレリウスやハゾスの判断ではありますが、それにしてもグインが記憶を失うということがなければこんなことにはならなかった。
 やはり、記憶を奪われるという事がどれだけ人間の関係性を破壊するのかということですね。
 いやぁ恐ろしい。
 前回も書きましたが、グインの記憶を勝手な都合で書き換え、消したり改ざんしたりしてしまう存在には、憎しみすら湧いてきてしまいます。

 しかし、スーティとグインのお別れの場面は、とても心に残る名シーンでした。
 わからないながらも、グインの異常をさとるスーティ。わけがわからないのにそれでも一生懸命状況を理解しようとする健気さが泣けてきます。
 そしてまた、記憶を失っていながら心のどこかにスーティとの絆を感じてしまうグインにもまた、グッとこみ上げてきてしまいます。
 フロリーがまた泣かせるじゃないですか。

「あのおすがたを……胸に刻んでおきなさいね。あのかたが……世界一の英雄なのよ……」

 悲しい悲しい別れです。
 スーティの幼い悲しさを思うととても憐れでたまりません。
 しかし、フロリーはそれ以上に感謝の思いで溢れているんですね。あわれなくらい謙虚な人です。
 希代の英雄グインが、己の子供をこよなく愛してくれたことへの感謝であり、また、そのグインとかりそめにも出会わせてくれた運命……フロリーにとってはミロク様ですね……への感謝でしょう。
 この健気さがいじらくしくてしょうがない。

 また、スーティの宿命を思うと、なんだかわけもわからず胸を打たれてしまいます。
 普通なら、大きくなってしまえばこの年頃のことなんてほとんど覚えていないでしょう。
 私も3歳以前のことなんて覚えてないですよ。
 それでも、類い稀な才覚をかいまみせるスーティならば……って思わせるものもありますから、ちょっとは覚えていてくれるのかな。
 グインが忘れても、どうかスーティの心には、いつまでも素晴らしい心の英雄として刻み込まれていて欲しいものです。
 また、スーティにとっては、イシュトヴァーンのような心の歪みから隔てていてくれるよう、グインを目指すべき目標として育って欲しい。
 そして、スーティが持とうにも持つことが出来ない父の姿として、心の支えとして覚えていて欲しい。
 イシュトヴァーンと違うのは、何より愛情豊かな母がいることです。
 母にくわえて、グインを心の父として胸に抱いていれば、イシュトと違った道を歩んでくれるかもしれない。
 そう願わずにいられません。

 思えば、スーティにとってはあの湖畔の小さな家から始まった旅は、幼い彼にしてみればとても長い長いものであったことでしょう。
 しかし、終わってみれば逆にとても短かったような気がしてなりません。
 もっともっとグインと一緒にいさせてあげたかった。
 この突然の別れという宿命を恨まずにいられません。
 はかない絆は、終わってしまえば黄金のように見えてきます。
 あの旅が、とてもかけがえのない幸せな旅であったかのようです。
 スーティという、とても大きな運命を背負った子供の、物心つく前の「黄金の夢の旅」だったのだなぁと、そう思います。
 いやぁなんだか切ないなぁ。
 スーティとグインのこのかりそめの絆が切なすぎる。
 この感じ、とてもデジャヴーを感じると思ったら、これは「辺境編」、「陰謀編」を経てアルゴスにたどりついたグインたちの長い旅と一緒なんですね。
 いやぁホント切ないや。


リンダとフロリーについて

 リンダとフロリーの新たな絆にビックリ。
 リンダを孤独から救うのがまさかフロリーだったとは。
 これはしかし、いつもなら「グチグチとこれまた長いくりごとを…」と呆れてしまうところなのでしょうけれども、なんだかわけもわからず目頭が熱くなるエピソードでした。
 堰を切ったように弱音を吐いてしまうリンダがあまりに痛々しく、なるほど、すっかり忘れていたけれどもこの人も随分ひどすぎる目にあってきたのだなぁとしみじみ。
 その弱音を引き出し、優しく受け入れて慰めることができるのは、フロリーのような女性でなければいけなかったのでしょうね。
 泣き言を言いながらも、最後はしっかりと立ち直り、明日からまた山積した難題に立ち向かってゆこうとするリンダ。
 とても眩しいです。
 ある意味、リンダの長い長い旅路もいま大きなターニングポイントに到達できたのかもしれません。
 もしかすると、リンダにとってのパロ内乱編は、今ようやっと終結できたのかもしれませんね。
 そう思うとこのふたりの絆、たまらなくジーンとさせられてしまいます。

 そして、リンダのその心の再生をもたらしたフロリーもまた、スゴい才覚……というか、体質を持っているじゃないですか。
 いつもはあまり役に立たないといったら失礼ですが、縫い物とかとても女性らしい所だけが領分だと思われていたのに。
 為政者や、うえつかたの心のケアをすることにかけては、もしかすると右に出るものはいないかもしれませんね。
 フロリーの「カウンセリング」のやりかたは、ひたすら相手の言うことをうなずいて聞く事だけです。
 しかしそれってとても難しいことですよね。
 ついつい途中で口を挟みたくなるものです。特に他の並み居る個性的なキャラクターたちにとっては。
 フロリーは最後までしっかり相手の言うことを聞いて、全肯定をしてあげるんですね。
 これがきっと、たくさん心の中に重いものを抱えている人にとっては一番なんでしょう。
 特に、リンダのように本質的に正しい再起能力を持っている人にとっては、聞いてあげるだけで自分で立ち直ってしまうわけですからね。
 いやいやフロリー、最後になって大活躍でした。


マリウスについて

 またマリウスですが、リンダがやってくる前は「おいおい、また逃げるつもりかよ。しょーがないなぁー」ってあきれ返ってましたが、結局たどりついた結論は、なかなかマリウスにしては真っ当じゃないですか。
 というか、マリウスにすれば革命的にスゴいことなのかも(笑)。
 しかし、マリウスが「子供時代の差別ゆえ、そしてミアイル公子ゆえ」、あれだけ頑なにパロを嫌ってきたという告白には、だいぶ納得の行くものがありました。
 なんだ、ただ身勝手や体質的なもので嫌っていたわけじゃないのですね。マリウスを勘違いしていました。ゴメンよマリウス。
 9巻のミアイル公子は私も今でも思い出せる、あまりにも悲痛なエピソードでしたから、そう言われてしまえば何も言い返せません。
 マリウスの思いも最もだと。
 しかし、逃げるのではなく闘うことを選んだというマリウスは、ついに変われたのかもしれませんね。
 がんばれマリウス。まっすぐ歩き始めたマリウス。応援せずにはおられません。


ミロク教について

 そして意外と言えば意外。
 ここへきてミロク教がクローズアップされてきました。
 意外とはいえ、ごくごく初期からミロク教が後の世界を大きく動かしてゆくことは仄めかされてきました。
 ゴーラがミロクの国になるような、そんな予言だか、伏線もあったはずです。
 しかしこのタイミングでそれが来たか!と思うと、いやぁようやっと来たなぁ!というか、大きな時代の波が来たなぁ〜!というか、なにやら感慨深いものがありますよ。
 パロにヨナがいて、ゴーラにはアリサ、そして今ヤガにフロリーとスーティが行こうとしている。
 考えてみると着々とミロク陣営が配置されていたのですね。
 教祖のような存在が現れてミロク教そのものが変質してきているそうですが、野心的な動きを始めるのでしょうか。
 ヤヌス教総本山のパロがこの状態ですから、ミロク教が勢力を伸ばすには絶好のタイミングなのかもですが。
 この不気味な存在が、いったいこれからどんなドラマを生むのか、非常に楽しみです。
 もしかすると、今までのグイン世界が一変するようなことになるのかもしれませんね。

 パロはようやっと長い戦乱から立ち直り、ゴーラは不気味な沈黙、これからケイロニアのターンとなると思いきや、ここで草原地方のターンなんでしょうか。
 最近ではすっかり蚊帳の外の感が強い草原地方。いやぁなんだか懐かしいなぁ。
 最後に見たのは、被曝の後遺症に苦しむスカールのところにグラチーがやってきた時でしたっけ?
 それも一瞬でしたもんね。それこそ陰謀編以来見ていないような気すらしてきます。
 今頃、どうなっちゃってるんでしょうね。
 これも楽しみ。


 さて、ヨナの言う「偉大な導き手」ですが、個人的にはスーティだったらいいな〜なんて妄想したり(笑)。
 なんでもかんでもグインではグインも疲れちゃいますからね。あ、イシュトっていう線もあるのか。しかしここはパパンよりもスーティに頑張って欲しいのだ(笑)。
 15年後、野心をむき出しに宗教的世界制覇をもくろむミロク教教祖を、スーティが倒して新教祖となり、ヤヌス教とミロク教双方を救うとか、そんな展開を希望。
 いや、それにはあと200巻必要だけど(笑)。


 ところで、ミロク教は、教義や存在こそキリスト教というかユダヤ教のような感じですが、名前や伝説からどうしても弥勒菩薩が連想されてしまいますよね。
 ところで、弥勒菩薩というと56億年という表記がひっかかるんです。
 弥勒菩薩って56億7000万年後に復活するとかいう話ですよね。
 ミロク教って、前から56億年後って言ってました?
 それとも今回は大体で56億年って言っているだけで、前は56億7000万年ってちゃんと言ってたんでしょうか。
 思ったのは、この数字の差ってスゴいヒントだったりするんじゃないだろうかって事なんです。
 もしかして、グインの世界って地球の7000万年後なんじゃないでしょうか。
 まぁ、地球だろうと地球じゃなかろうと、物語にはなんの関係もないでしょうし、だからどうしたってな話なのかもですが、ただ数字が気になったもので(笑)。



 ところで栗本先生の術後の経過はだいぶ順調のようですね。
 術後5年生存率25%にはゾクリとさせられてしまいますが、2割5分の打率ならいけるいける。
 世の中2割5分のホームラン王だっているんですからね。
 とりあえずリハビリ、お辛いでしょうけれども頑張って欲しいものです。



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posted by BOSS at 23:05| Comment(2) | TrackBack(0) | 読書感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 ブフォア!
 その発想はなかったぜ!!>地球の7000万年後
 だったらすごいなぁ。というか、そんなネタだった場合には全力で BOSS の賢察を賞賛しようと思います。
 ……あと 500 巻必要な気もしますがw
Posted by DRR at 2008年04月20日 18:49
 いやぁ、既に本編のどこかでそれを匂わせる伏線があったのかもしれないけど、今となってはそれだけのために読み返す気合も時間もないのだけれども(笑)。
 「魔境遊撃隊」では、薫くんが古代遺跡でグインの肖像画だか壁画だかレリーフだかを見ているのよねぇ。それでてっきりグインは「過去」なのかと思ってたけど、予知による「未来」である可能性もあるのだなぁと。
 まぁ宇宙が一巡してて「過去でもあり未来でもある」可能性もあるかもだし(笑)。

>……あと 500 巻
 恐るべしッ!
 パロ人が全滅したらもっと早くまとまると思う(爆)。
 なんて問題発言か(爆)。
Posted by BOSS at 2008年04月21日 15:48
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