脳性麻痺の女性と、社会のつまはじき者の男の純愛ストーリー。
脳性麻痺の女性役ムン・ソリが真に迫る、これぞ本当の「体当たりの演技」。
社会から差別の目で見られる者たちの愛の物語なのに、それでも恨みがましくない清々しさがあります。
彼らの愛の前では、差別者たちや社会の無理解などどうでもよいのだ!

監獄から出所してきたばかりの29歳の青年ホン・ジョンドゥ(ソル・ギョング)は、やることなすこといい加減で職にもつけず、社会になかなか馴染めない。
そんなジョンドゥがふとしたきっかけで、脳性麻痺の女性ハン・コンジュ(ムン・ソリ)と出会う。最初はレイプまがいにコンジュを襲うジョンドゥであったが、抵抗と緊張のあまりに気絶してしまったコンジュを介抱したことから、次第にふたりは愛し合うようになってゆく。
ジョンドゥは関係のギクシャクしていた兄に頼んで自動車修理工として働き始めた。休みの日になると、客の車を勝手に拝借してコンジュを連れてドライブに行ったりと、やることなすこと危なっかしいのは変わりないのだが、それでもふたりは幸福だった。
だが、世間の障害者に対する視線は冷たかった。
まずはコンジュ役のムン・ソリが凄いのひとこと。
脳性麻痺の患者を忠実に演じるために、身体を破壊しかねないほどの演技を見せてくれます。
手足をつっぱり、背筋を歪め、顔を限界までひしゃげ、目線、舌までも、ありとあらゆる筋肉をひきつらせる極限の演技。
あまりに身体に負担を与える演技であるため、一度の撮影は10分ほどに限られ、そのたびにマッサージや治療が必要という凄絶さ。
しまいに身体が動かなくなって、撮影中病院に駆け込むことも何度かあったらしく、クランクアップ後の検査では、ムン・ソリの骨格はすっかり歪んでしまっていたと言う恐ろしい後日譚まであるとか。
よく世に「体当たりの演技」という言葉がありますが、エッチなシーンをやったり、危険なアクションをやったりするだけで使われちゃってますよね。
しかし、本当の「体当たりの演技」とはどんなものなのか、それはこの映画を見ればわかるというものです。
役者魂の凄まじさをあらためて見せつけられた思いです。
あ、ちなみにこの映画でもエッチなシーンは何度かあります。
それじゃぁもう普通の「体当たりの演技」超えてますよね〜(笑)。
また、そんな脳性麻痺のコンジュが、ときおり妄想の中で見せるかわいらしい女性像がなんともいえず胸を打ちます。
もし自分が健康だったら…。
ジョンドゥに車椅子を押されて街中を遊び歩きながら、他のカップルのじゃれあいを見て、コンジュは心の中で自分たちを重ね合わせるのです。
その瞬間、コンジュは車椅子からパッと立ち上がり、空のペットボトルでジョンドゥの頭を殴りつけ、知らんぷりしておどけてみせたり。
明るく笑って冗談を言ったりと、すっかり普通の女性なのです。
作中数回見せてくれる、この華麗な変身があまりにも鮮やか。
女優さんの演技力に舌を巻きます。
そして、コンジュという女性がいじらしくてしょうがありません。
誰からも理解されず、身内からも人間として扱ってもらえないコンジュですが、心の中はこんなに素敵な女性なのです。
誰からも理解されないという意味では、ジョンドゥも一緒ですが、ジョンドゥはジョンドゥで社会不適合者。
コンジュへの愛はどこまでも一途ですが、世の中のしきたりや他者への配慮を全然知らないのです。
家族ともうまくやっていくことができず、自分を相手に説明する言葉も持たない。
そんなふたりの愛だから、誰にも説明できずに秘密の関係なのです。
最初から、このふたりの関係は悲劇を予想させてしまいます。
悲しいことに、まだまだ韓国でも障害者は差別の冷たい視線を向けられてしまうようです。
焼肉屋に入っても、
「すみませんお客様。本日はもうお肉がなくなってしまったので……」
と、あからさまなウソで追い出される始末。
日本もだいぶ昔よりはマシになったのでしょうが、日本だって本質的には変わらないのかもしれませんね。
コンジュの家族からの扱われ方も酷いの一言。
政府からの補助金目当てにコンジュを道具として扱っているのです。
それに、コンジュの事を置物か何かと勘違いしているのじゃなかろうか。
人としての扱いじゃありません。
実に腹が立ちます。
しかし、コンジュも、ジョンドゥも、そんな冷たく偏見に満ちた、自分達を理解してくれない人たちに、恨みの一言も言いません。
むしろそんなことなど目にも入らない。
それがこの作品を素晴らしいすがすがしさにしてくれています。
社会へ投げかける問題提起とか、そういうメッセージ的なものは、読み取ろうとすれば制作側の意図として感じることはできるのですが、しかし若いふたりから感じるのはただただお互いを想う心だけ。
ふたりにとっては、世の中など眼中にナシ。
見えるのはただただお互いのみ。
お互いだけがあればよいという純粋さが、どこまでもいじらしく、すがすがしく、涙を誘います。
どんなしうちを受けようと、このふたりの、なんと幸せそうなことか。
むしろ、二人を冷たくあしらう世の中のほうが、心の抜けた不幸な存在としか映らない。
そういった意味では、世間はこのふたりに完敗しているのですよ。
最後も、希望を残した拍手喝さいもののフィナーレ。
涙なくしては観られません。
そんな熱烈ラブストーリー。
韓国映画のふつうのラブストーリーものとも一線を隔す、映画の凄みを感じる作品です。
ところでジョンドゥが食べてたあの巨大豆腐、どんな味がするんだろう。
両手に余るような豆腐を素手でモシャモシャバクバク食ってましたけど、あれって杏仁豆腐みたいな甘いものなんですかね。
日本の豆腐とはたぶん違うんでしょうね。
あまりにおいしそうに食べてたものだから気になっちゃいました。
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