士郎正宗の漫画『攻殻機動隊』の劇場用アニメ映画化第2弾。
作品としては独立した一本ですが、1作目からの鑑賞をオススメします。
「GHOST IN THE SHELL」のその後のバトーを中心に、さらに人間の深いところに踏み込んだ世界を描き出す。
美麗な映像世界に酔いしれて、心の迷宮に迷い込むような不思議な快感が味わえます。
前作の感想はこちら。
「人形使い」の事件から4年後、少女型の愛玩用ガイノイド(アンドロイド)が原因不明の暴走を起こし、所有者を殺害する事件が起こった。被害者の中に政府関係者や元公安の関係者がいたことから、事件捜査に公安9課のバトー(声:大塚明夫)とトグサ(山寺宏一)が乗り出すことになる。だが事件は意外な方向へと展開し……。
科学技術が発展し、人間と寸分たがわない――いな、人間よりも優秀なアンドロイドや義体を作り出し、記憶をデジタル化して改ざんしたり、擬似的な脳をさえ作り出すことに成功した未来世界。
人は経済的な制限や宗教的な束縛などがなければ、不便な肉体を捨て去り、自ら望んで義体化し、脳を電脳化し、各脳神経機能を機械的に増大化させたり外部にメモリーを増幅したりすることが、ほとんど当たり前のようにできてしまう世界となっていた。
だがそこで、ロボットと人間、無機物と生物の境界線とは何なのだろうという、現代ならば自明の理のはずの疑問が極めて難解になってしまうという皮肉。
今作品で象徴的に対峙させられるのが、「人間」と「人形」ですが、これすなわち「人とはなんなのか」という疑問がテーマなのでしょう。
「GHOST IN THE SHELL」で提示された「自分とはなんなのだろう」という疑問が、さらに広く深く追究されているようです。
そのテーマに沿って、イノセンスでは印象的な映像とセリフの数々で構築されたエピソードが次々と展開されていきます。
この印象的な映像世界が、さすが!といったハイクオリティ。
冒頭の暴走した少女型ガイノイドとの路地裏での遭遇、カニバサミとの格闘シーン、コンビニでの事件、そして圧巻の大祭シーン、といった、ドキドキするような場面だけでなく、夜の街や、バトーの自宅の安らぎのひと時など、ちょっとした静かなシーンがひとつひとつ丁寧に作り上げられており、世界の空気感がしっかりと伝わってくる仕上がり。
この映像美だけでオツリが来そうなできばえです。
ラストのアクションはバトーや敵ガイノイドの体重すら感じさせるすばらしい出来栄え。
バトーがただ走っているだけでもカッコイイのです。
動いていることがカッコイイって、それすなわちアニメの原点的喜びですよね。
これは素晴らしい。
また昨今のアニメーション作品は全編CGで描かれているわけですが、それでも自然に見せるために昔のセル画調に描かれるわけです。
ところがこのイノセンス、ときたま確信犯的に「いかにもCG」な絵を挟むのが上手いのですよ。
前作では「コンピューターの目やモニター」という記号としての使い方だけでしたが、そこを一歩踏み込んだ使い方を編み出していて、うーむと唸らされました。
「いかにもCG」な絵に突然かわったときに観客が感じる違和感を、いい具合に「不安」を煽るのに利用しているんですね。
演出の一技法として取り入れている発想は、オリジナルではないとしても取り入れ方が面白い。
作品テーマとも非常にマッチしています。
まだまだ研究途中の技法という感じで、全編うまく行っているとまではいきませんでしたが、これは評価したいポイントです。
(ウィキによると、どうやら制作時の事情は違い、押井監督は全編コンビニのようにやりたかったのだとか。しかし技術的にそれが頓挫し、アニメ調との融合が図られたのだが、その際に生じるアニメ調とCG絵とのギャップをシーンによっては埋めなかったという取捨選択が、前述の演出技法となったようです。)
今回のもうひとつの特徴として、登場人物たちがやたらめったら「聖書」やら「孔子」やらの文言を引用しまくるところが挙げられます。
これがちょっと厄介で、この作品のハードルをひとつ上げちゃっているように見えるのがもったいない。
彼ら脳を電脳化した者たちにとって、一瞬で自分の引用したい文章をネットにアクセスして引っ張ってくることくらい朝飯前。
気に入った文言なら脳のどこかに保存しておいて一言一句間違いなく言ってのけるくらい簡単なのです。
この時代の流行なのか、彼らは普通の会話でもなにかしらの引用をせずにはいられない。
口論をするときもめったやたらと「引用合戦」。
ここ、正直言ってしまってわたしは何を言ってるんだかチンプンカンプンなことばっかりでした。
頑張れば理解できるのでしょうが、スラッと頭に入ってこないから理解するために一回考えなきゃいけない。
しかし考えているうちに次のシーンや会話が始まっちゃってるんですよね。
最初のうちは理解しようとつとめていましたが、終盤にさしかかるころには面倒になり、理解する努力を放棄。
しかしそこではたと気づき、「ああ、これはきっとあまり考えなくていいんだな。なんか小難しいこと言ってるな〜って思って雰囲気で楽しめばいいのだな」と、素直な目で楽しみました。
そこからは非常に面白く楽しめましたよ。
特にラストシーンはそんな小難しい言葉なんていらない感動があります。
セリフに惑わされると迷宮にはまっちゃう、そんなトラップつきの作品のようです。
いやぁ内容も迷宮的ですが、映画自体も迷宮的とは。
迷宮と言えば、ラスト前の迷宮が素晴らしい。
ああいう狂った画家が描いたような悪夢の世界は大好きなモチーフです。
今回バトーと一緒に行動することとなったトグサや、イシカワといった、いわゆる一般人らしい言葉が増えたのも好印象。
前作は草薙素子ひとりのモノローグばかりが印象的で、どことなく独りよがりな作風という印象がありましたが、今回はいろんな立場の人間が描かれることで、作品に奥行きが出たようです。
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