2008年03月02日

コミック感想 ホムンクルス 9

 人の心の歪みを、モンスターのような姿形として見る能力を得てしまった男・名越進の物語もついに終盤か?
 最新刊第9集の感想です。

 しかし、帯の紹介が小島よしおって(爆)。
 作品とのギャップに笑った。

 8巻の感想はこちら

ネタバレ注意!



 伊藤が逆襲を開始するところから始まるこの9巻。
 伊藤が突然、真っ黒い名越自身となって追い詰めてくる恐怖はなかなか。

 やはり名越は、「自分を探したい」ようなことを言いつつも、本質的には「自分を見たくない」ようです。
 整形する前の顔が、チラリと「黒名越」として垣間見えましたが、いかにも恐ろしい恐怖の対象のように名越本人には見えたようです。
 それほどに恐れる「本当の自分」ってなんなんでしょう。

 またこの恐怖には、普遍的な共感を呼ぶものがありそうです。
 誰しもが、自分の嫌いな部分を抱えていて、見たくない部分を見ないようにしているものでしょう。
 かく言う私も、夜中に一人、布団のなかで自分の嫌なところを思い返しては「ウワ〜〜〜ッ」と叫びだしたくなることも時にあったり。
 そういう所は、大なり小なり誰もが持っているもので、そういうものと縁遠い、自分が好きでしょうがないっていう人はごく少数の選ばれた幸せな人種だと思うのです。

 「自分を見たくない」という潜在意識が複雑に働いて、名越は自分を鏡に見ると「ロボット」「砂」で飾ってしまうのではないでしょうか。
 たしかにロボットや砂は、名越の一部ではあるでしょう。
 しかしそれが名越の「本当の患部」ではないと思うのです。
 ホムンクルスに迫れば迫るほどに「本当の患部」を覆い隠すため、ロボットや砂のように相手からコピーして包み隠してしまう。
 名越はそういう自己欺瞞の悪循環に陥っているのではないでしょうか。

 伊藤の「黒名越」も、そのことに気づいたのか、あてずっぽうなのか指摘しています。

「右手がロボになり左手に砂が移っただあ? そんなカダヂ、嘘だ!」
「おまえ(わぁ)、自分(わぁ)の幻覚にも嘘をついているのに気づがねぇのが?」


 一度絵にして見せてもらった名越自身のホムンクルスをうろ覚えで言っているため、ロボと砂の場所を間違えたのでしょう(本当は左手がロボ。左脚が砂)。
 あるいは、可能性の低い仮説ですが、伊藤にもうっすらとホムンクルスが感じ取れるとしたら、伊藤にはその言っている場所にロボと砂を感じられたのかもしれませんが。

 なかなか深い迷宮ですね。
 求めるものを阻むのは、自分の潜在意識。
 最強のトラップです。
 はたして、自分で自分自身を救えるのか。
 またもし自分自身の真のホムンクルスを見てしまったら、そのとき名越は正常でいられるのかとか、いろいろと考えさせられてしまいます。
 なんだか非常に難解な事態に、物語は足をつっこんできたなぁ〜と感じます。
 いよいよホムンクルスの物語は終着駅が近いのでしょうか。


 途中息抜きのように入る病室訪問。伊藤の変貌ぶりに思わず笑ってしまいます。
 変身上手すぎです。
 いかにも優等生のおぼっちゃんって感じで、これが父親が求める理想像なんでしょうねぇ。
 いかに人間が外見で人を判断するかというところもありますね。


 そして始まる名越と鏡合わせと言う伊藤の分析編。
 女装させてホテルで食事って、これはいったいどういうことなのか。
 絵としても非常に珍妙で面白いのですが、意味も難解でどう解釈していいやら迷います。

 単純に押さえつけられた変身願望を解き放つ、ということでよいのでしょうか。
 8巻の感想では、伊藤のホムンクルスは名越に見られたくないがためのカモフラージュとして水槽化したのではないかという仮説を出しましたが、どうもそうではなく、現在のボディに「実感がない」ための水槽化のようですね。
 伊藤が実感を覚えるのは、内部に生きている小さな美しいグッピーであり、グッピーからあらわれる「顔」「美しい尾びれ」「素足」という局所的なパーツなのでしょう。
 そういう所が、伊藤は自信を持っていたり、自分自身を愛せていたりする場所なんじゃないでしょうか。
 買って来たグッピーを水槽に入れ、「ジーーッ」と眺めている伊藤は、普段人に絶対見せないような優しい顔をしていましたね。
 ああ、こいつでもこういう柔らかい表情するんだっていうような安堵した静かな顔でした。
 その伊藤は、よく見るとグッピーを見ていないんですよね。
 実は水槽に写った自分の顔と見詰め合っている。

 これらの情報から推測されるのは、多少単純ですが、「美しい自分に変わりたい」という変身願望。
 親との軋轢は原因ではなく、「変わりたいけど踏み出せない理由」として自分を押し殺す言い訳に利用しているだけなんじゃないでしょうか。
 本当は美しい女性的な人間に変わりたいけど、理性がそれを押し留めている。それが伊藤のホムンクルスなんじゃないでしょうか。


 名越と伊藤は、たしかに鏡合わせなのかもしれません。
 名越は本来の自分を消したことで実感がないが、伊藤は本来の自分になれないことで実感がない。
 名越は本来の自分が嫌いだが、伊藤は好き。
 名越は本来の自分を見たいと言いつつ潜在意識がかたくなに拒んでいるが、伊藤は自分はホモじゃないしそんなんじゃないと言いつつ本当は見たい。
 いや〜、なかなか難しい話ですが、そういうことなんじゃないでしょうか。

 はたしてこの二人が、いったいどんな結末をむかえる事になるのか、予想困難、解析不能。
 スリリングで目が離せません。


 しかし、あんなゴツい伊藤が最後のほう、だんだん可愛いく見えて来ちゃうから不思議だ(爆)。



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