士郎正宗の漫画『攻殻機動隊』の劇場用アニメ映画化第1弾。
凄腕のハッカー「人形使い」と対決する、公安9課の活躍が描かれるSFアクション。
科学技術の発達により、人体や人の脳をすら改造する事が可能になった未来。
しかし人は、そこであらためて原初的な疑問に立ち止まることになる。
人間の電脳をハッキングしてテロを行う、通称「人形使い」と呼ばれる凄腕のハッカーが入国したことを受け、草薙素子(声:田中敦子)はじめ公安9課はその捜査に乗り出す。
そんなある日、草薙素子の義体を作り出した「メガテク・ボディ社」の製造ラインが突然勝手に稼動し、女性型の義体を作りだす。逃げ出した義体はトラックに跳ねられ、9課に運び込まれるが、調べてみると、義体には生体の脳が入っていないにもかかわらず、「ゴースト」つまり精神が宿っているようなのだ。
そして、その義体は驚くべき告白を始め、「一生命体としての亡命」を主張した。
冒頭からSFアクションらしい刺激的な場面の展開に目が離せません。
オープニングを飾る、草薙素子が裸体でビルの壁面を滑り降り、光学迷彩で透明になりながら特殊部隊さながらの活躍をするシーンは、作品世界をあっという間に観客に伝えてしまう名シーンですね。
これ一発で、この世界の技術レベルの高さ、そしてその中でも特殊な公安9課という存在を把握できます。
また、これに続くオープニング・アニメーションの草薙素子製造工程も素晴らしい。
最初は「ターミネーター」さながらのロボットが、様々な工程を経て肉づけされ、美しい裸婦に変貌をとげるこの場面。
世界観を伝える面白いシーンであるのと同時に、これが後半になると素子の鬱屈にダイレクトに繋がっている無駄のない構造。
なかなか美しいです。
もっとも印象が強かった場面はしかし、草薙素子やバトーの活躍場面ではなく、電脳の記憶を改ざんされてしまった男の悲しみでした。
ここ数年の記憶全てを改ざんされ、生活全て、心の支え、愛するものも全部虚構の「夢」であったことをつきつけられてしまった彼。
彼はその後、いったいどうなってしまったんでしょうか。
これだけ科学が進んだ時代でも、その男の脳を治療することは出来ないというのがあまりに哀れ。
これは心にズシンときますね〜。
人の脳の不思議を端的に表すとても印象的なエピソードでした。
技術が発達し、人の脳の中身にすら手を加えられるようになった時代。
草薙素子の体は全てが義体で構成され、脳の中身すらどこからどこまでが「自分」であったのか、自分でも分からない。
インターネットなどの外部の記憶装置とも繋がり、心すらもどこまでが「自分」でどこからが「外」なのか分からないのかもしれません。
「人形つかい」の事件に鬱屈した思いを覚える草薙素子は、そんな疑問に突き当たります。
「自分」ってなんなんだろうという疑問は、誰もが子供の頃いだくものでしょう。
しかしだいたいの人は、そういう疑問をいつまでも抱えてはいません。
子供から大人になる間に、どこかで折り合いをつけ、あるいは納得をしたり、あるいは忘れてしまう疑問でしょう。
ところが皮肉にも、あまりに技術が発達しすぎたがために、あらためてこの時代の人物はその疑問に突き当たってしまう。
人間は、どこまでが人間で、どこからが機械、無生物なのか。
自分は、どこまでが自分で、どこからが作られた自分なのか。
SFの姿と文法を借りたこのアイデンティティー探しは、主題としてはありがちなものではありますが、抜群のセンスで織り成される映像世界もあって、なかなか興味深いものがあります。
「自分ってなんなんだろう」っていう疑問をふたたびつきつけられて、しばし思いにふけってしまう。
そんな作品でした。
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