もし他人が見ている夢のなかに入ることが出来る機械があったら?
そんなまさに夢のような機械をめぐって繰り広げられる大事件。
めまぐるしく移り変わる素晴らしい夢世界。
これはたしかに日本アニメーションでしか映像化できません。
千葉敦子(声・林原めぐみ)は開発されたばかりの他人の夢に入り込むことができる機械「DCミニ」を使って、精神に病を負った患者の夢治療を秘密裏に行っていた。
ところがある日、DCミニが3台盗まれてしまう。問題なのは、DCミニにはまだアクセス制御がかかっておらず、敦子らが患者の夢に入っている最中、犯人に侵入される可能性があるという事だ。
事件の隠蔽を試みようとする矢先、理事長に事態をかぎつけられ、さらに研究所長が犠牲者となる。次々と精神に侵入され、重度の誇大妄想患者の夢にまきこまれてしまう研究所所員たち。
敦子ら研究チームは犯人を捕まえようと捜査を開始するが、この事態ですら、あの大事件の幕開けにしか過ぎなかったのだ。
とにかく夢の映像マジックが素晴らしい!
様々な映画のワンシーンが連想ゲーム的に次々連鎖してゆく夢や、人形や家電製品が巨大なパレードを作って騒々しく街中を練り歩く夢。
にぎやかでけたたましくて、まさに狂った世界を、強烈なセンスで極めて美しく緻密なアニメーションに仕上げてくれています。
この膨大な情報の洪水に、ただただ見惚れるばかり。
そもそも精神病治療の一貫として作られたDCミニであり、事件は人間の内面に深くかかわって描かれますが、専門的な深さはあえて割愛されているようです。
夢の中を舞台として、患者の精神の傷(トラウマ)をテーマにしているものの、解決手段は一見単純。
その裏側に深いものを隠しているようなのですが、さしてそういったところを追求しなくとも単純に楽しむことが出来ます。
この娯楽性の高さも私は好感が持てます。
展開としては、クライマックス前のひっくり返し方が特に快感。
観ているこちらとしては、このへんで事件がさらに展開するんだろうな〜とは分かっていたのですが、それにしたってこの見せ方は気持ちいい。
それまでの、どこか緊張感のあるミステリーっぽい展開が、一気に決壊して規模を拡大するのですが、これがたまらなく爽快な演出なのです。
これは観てのお楽しみ。
キャラクターの魅力がまた秀逸。
主人公・千葉敦子は普段はクールで無口な知的美人。
しかし一端夢の中に入ると、自由奔放で活発な少女に変貌します。
その少女の名前がパプリカ。
自由気ままに姿かたちを変え、ティンカーベルになって空を飛んだかと思うと、次には人魚になって海を泳いだり。
彼女のこの大きなギャップが、作品全体の魅力ともなっているようです。
また、彼女の二面性を堪能できるオープニング・アニメーションが、素晴らしい出来栄え。
テンションの上がる高密度のテーマ曲に乗せ、夢の中を勝手気ままに飛び回るパプリカ。
今からとても素敵な冒険が始まるぞ!というワクワク感がいやおうなしに盛り上がります。
この敦子が、同僚のDCミニ発明者であるところの天才デブちゃん(声・古谷徹)をこっぴどく叱り付ける場面がまた最高に強烈で気持ちいい。
無責任なオタク精神をガツンと叩きのめすタンカで、オタク的趣向の持ち主には少なからず痛く響く部分がありそうです。
世のマゾヒスティックな男性諸氏には、これはちょっとたまらないのではないでしょうかw
原作は筒井康隆による小説。
彼の作品独特の、最後は「ひっちゃかめっちゃかのお祭騒ぎ」になってしまう、あのとんでもないパワーがよく再現されております。
精神病患者らのセリフが「七五調」になっていく様や、「無機物のパレード」に次々飲み込まれてゆく人々のシュールな狂いっぷりも、いかにも筒井作品。
この大騒ぎのお祭騒ぎが、重度の精神病の世界でありながら、見ていて深刻にならないようにしてくれているのでしょう。
次々人の夢を飲み込み、ドジャーン!と溢れ出てくるたびにこちらはたまらずニヤニヤ、ガハハと笑い出してしまいます。
この繰り返し現れる「無機物のパレード」は最高に見物です。
ちなみに筒井康隆氏本人も、監督・今敏と一緒に声優となって出演しております。
けっこう重要でカックイイ役割なので、ちょっと驚くと思いますよ。
自作で、夢と現実を行き来するゲームを作っている関係上観てみた一本でしたが、これはとっても刺激を受けました。
夢の中で姿が変貌する点や、その他もろもろ同じコトを考えているな〜とムフフ笑いの出るシーンもあり、なるほど!と思わず手を打つシーンもあり。
いやいや、そんなこと関係なしにこの映画は面白い!
是非めくるめく夢の世界のとりこになって欲しいと思います。