前回の感想はこちら。
ネタバレ注意!。
前回「低血圧の必殺仕事人」と表現したこの作品ですが、徐々に「低血圧」が緩和されてきた印象ですね。
というのも、観るこちらが夕叢霧香のスローテンポなボソボソ声に慣れてきたというのもありますが。
繰り返し挟まれてきた回想シーンが撤去され、脚本の密度が上がったのもひとつ。
また、作品としても意図的に基本をはずし始めた感じがあり、その影響が大きいと感じられます。
大前提として悲観的、虚無的な世界観を提示しておき、その上でそれをちょっとずつ崩してきているんですね。
たまに入るコミカルな演出や、仕事ではない殺しがそれです。
とくにそれが顕著になったのは12〜14話。
この3話ではどれも「仕事ではない殺し」が主題となります。
12話は主人公ふたりが登場せず、登場して間もない「真のノワール」ことクロエが主役という珍しさもありますが、「仕事としての殺し」のあとに、殺したターゲットの代理復讐を私情でやってしまうというエピソード。もしかするとソルダからの命令で後者も殺しのターゲットになっていた可能性は否定できませんが、演出上クロエの心情から行われた殺しであったように見受けられました。
13話はさらに顕著。一応、昔逃がしてしまった仕事のターゲットをあらためて殺したエピソードではありますが、基本構成は「復讐者への返り討ち」です。そこに昔のヤクザ映画さながらの悲劇的な男女の物語をからめることで、報復という色合いを強め、裏社会の非情さ無常さをひきたてているようです。
14話も「返り討ちタイプ」でありながら、ミレイユを肉親と立ち向かう運命に放り込むことで、裏社会に生きるものの悲痛な生き方が際立って印象的なものとなりました。
どのストーリーも人情ものになるスレスレのライン。
キャラクターの内面をこれまでになく深くつっこんでゆきながら、今まで培ってきた非情な世界に踏みとどまります。
これをシリーズ序盤でやってしまったら、この作品の世界観はまったくちがったセンチメンタルなものになったことでしょう。
あくまで非情な世界を貫いてきたことで、今回がイレギュラーな迷いなのだと分かります。
プロだって迷うんですな。
今まで無表情だった霧香が、ちょっとずつ複雑な顔を見せるようになってきたのがとても好印象です。
今回秀逸だったのは第13話に登場のミロシュ(声・関俊彦)。
川べりの土手で絵を描いて霧香と出会うあのいい人ですね。
ちょこっとしか登場シーンがないのにこのキャラクター造形が実に繊細で豊か。
セリフの各所に、この人物の過去や悩み、ちょっとした心遣い、人の良さ、優しさがにじみ出てくるものがありましたね。
中でも、
「いいんだ、気にするな」
という口癖がとてもいい。
いまわの際、霧香の銃をみつけてまた、それを言いながら息を引き取ってゆくあたり、関さんの名演技もあって古い映画のワンシーンのようにキマってましたね。
話はズレますが、霧香が普段の生活でなにげなく言う「よいしょっと」っていうちょっとオバサンっぽい口癖がツボだったりします。
こういうところがカワイイと思うのだよボクは(爆)。
好評の音楽、中でも私はバトルシーンのテーマが気に入っているのですが、「これって必殺仕事人における『殺しのテーマ』だよなぁ〜」なんて思ってたんです。
まぁ曲調はまったく違いますが。
そしたらどうよ、DISC4に入っていたミレイユ役三石琴乃さんのインタビューで三石さんも同じこと言ってるじゃないですか。
いやビックリ。
今の若いひとにはこの話わかんないと思いますけどね〜。
作品的にもけっこう似ているところがあるんですよ。
NOIR好きな人は必殺シリーズ観るのもオススメします。
中でもオススメは『新・必殺仕置人』。
極めてハードな世界と悲劇的な物語の両立。
バイタリティ溢れる登場人物の軽妙なやりとりも魅力的。
時に必殺の世界から飛び出してしまうくらい意欲的な話もあったり。
多くの必殺ファンが、全シリーズのなかでも最高峰と評する作品です。
「時代劇」っていう普通のイメージが崩されること請け合いです。