東京都知事が、「東京に原発を誘致する!」と爆弾発言。
しごく真面目なテーマを、ブラックユーモアを交えてひょうひょうと描く問題作。
肩の力を抜きつつもズーンとくる内容を楽しめます。
娯楽作としてもこれは充分に面白い。
東京都知事・天馬(役所広司)はカリスマ性はあるのだが、とかく思いつきで行動する性格と、周囲からはちょっと困った人物と思われている。その天馬が突然各局長を召集した。いわく、「東京に原発を誘致する!」。混乱する各局長を前に、ヤル気まんまんの都知事は、原発誘致がもたらす莫大な経済効果、さらにそれによる壮大なエネルギー利用構想を披露する。意見がまっぷたつに割れ、会議は混乱。原発の安全性に危惧をいだく面々は大学教授を急遽呼び出し、専門家からの意見を求める。
同じ頃、お台場の埠頭に日本にはないはずの「あるもの」が荷揚げされる。それを福島まで極秘裏に運ぶことになったトラックはしかし、途中爆弾をもった少年にカージャックされてしまう・・・。
カージャックのエピソードが娯楽サスペンスの風味を加えているものの、ほぼ全編が都庁舎での会議シーン。
ここで次々披露され、二転三転する原発議論がとにかく面白い。
詳しくはネタバレになるので伏せますが、普段マスコミも国も言ってくれないあんなことやこんなことがポンポン飛び出してきます。
国がひたかくしにしてきたという、国民に知られたくないある事情や、エネルギー事業への不均等な資金配分、産業界を支えるエネルギーの国際的に見ても不当な価格などなど、なかなか耳を疑いたくなるようなことばかり。
不覚にも「へ〜!そうだったのか〜!」と目からウロコ連発。これは面白い。
はたしてこれらの情報全てが本当かどうか、実際のデータに基づいたものなのかはわかりません。
あえて伏せられた情報もあることでしょう。
しかしそういったことをさっぴいて考えても、原発についてとても興味深い意見ばかりです。
普段あまりそういったことを考えたことがない人、興味のない人にも、これはとても面白い場面でしょう。
原発について非常に詳しい都知事や大学教授が説明し、無知な登場人物が素朴な質問を繰り返し、議論する形で話がすすむので、すんなり入り込むことができます。
また、二転三転ののちの着地どころが、ちょっと滑稽であり、またちょっと感動的。
この作品自体で提示した様々な情報が全面的に正しいのかどうかは横に置いておくとして、その至った結論にはとても共感ができます。
こうズバリと世間に問う作品は、気持ちの良い気分がしますね。
そして役所広司演じる天馬都知事がかっこいい!
基本ワンマンで誰の話も聞かず、暴走気味の人物なのにどこかカリスマ性がある。
誰よりも都政をまっしぐらに考え、信じることのためには手段を選ばないという、いわば理想像がそこにあります。
だけどちょっと不器用で、その人の本当の凄さはよーく見てみないと分からない。
政治家なのに自分の気持ちを伝えるのが下手なんですよね。
そんなアンバランスさがいかにもな人間らしさとなっていて、とても魅力的。
ちょっとないな〜っていう嘘臭さスレスレの人物像です。
いやぁカッコイイ!
会議のめんめんがまたけっこういい味を出しています。
エリートで冷静だが根は熱血な副知事に段田安則。
やる気も主張もあまりなく、流されてばっかりの財務局長に岸部一徳。
ゴミの分別に無知だったりエアコンつけっぱなしで退室したりする環境局長に吉田日出子などなど。
それぞれちょっと滑稽で、一癖も二癖もあります。
この人たちのグダグダ気味でド素人まるだしの議論というスタイルが、なんだか身近で共感を呼び、またその後ろにシュールなブラックユーモアを秘めているんですね。
なぜ我々は、こんなド素人たちに都政を任せているんだろうと、憤慨する気分にもなったり。
このちょっと滑稽なひとびとの、やや誇張気味の描写スタイルは舞台劇に近いのかもしれませんね。
劇といってもややセリフ棒読み風味で、違和感を覗かせるところがまた逆に上手い味となっています。
この違和感が微妙に非現実的な空気を生んでいるんですね。
そしてその妙な空気がラストに生きてくる。
意図してか、それとも偶然かはわかりませんが、これはとてもよい構図です。
カージャックのエピソードは、いかに日本がテロリズムに弱いのか、その実態を露呈していて薄ら寒くすらなります。
今まで日本が安全でいられたのは、ただの幸運でしかないのではないでしょうか。
問題提起し、ごく真面目な内容でいながらちょっと肩の力を抜いてブラックジョークで味付けして、ちゃんとエンターテインメントしている。
そんななかなかバランス感覚のいい作品。
見た目も中身も地味だけど、これは隠れた逸品です。