たった一本の電話が、誘拐された女性を救う命綱。偶然かかった電話を取ったひとりの青年が、携帯片手に奔走するスリリングなサスペンス&アクションの痛快娯楽。
一見地味な役者と映画の見た目で騙されそうになりますが、脚本、演出ともにこれは凄いポテンシャル。
決して本格派の大作ではありませんが、先の読めない展開に最後まで釘付けの小粋な秀逸作。
生物学の教師ジェシカ(キム・ベイシンガー)は数人の男達に誘拐され、どこともしれない家に監禁されてしまう。男達は、ジェシカの子供と、夫をも狙っている様子。その部屋にあった電話はバラバラに砕かれていたが、それをなんとか修復して外部と連絡を取ろうとする。偶然つながった先は、ビーチで女の子を追いかける軽薄で無責任な若者、ライアン(クリス・エヴァンス)だった。最初は相手にしなかったライアンだったが、次第にただ事ではないことを悟り、ジェシカを救うためになりふり構わず奔走を始める。
はたしてジェシカと、その家族の運命は。そして彼女をさらった男たちの目的はいったい・・・。
たった一本の、それもいつ切れるかわからない電話だけがジェシカのたったひとつの命綱。
それもダイヤルが壊れているから、同じ番号にかけ直しは不可能。
しかもライアンがリダイアルすると、犯人グループが電話に気づいてしまう。
非常によくできた導入で、緊迫の状況が作り上げられています。
当然ライアンは警察に駆け込むわけですが、ところがどっこいいくつもの偶然が、ジェシカがたよれるのはライアンひとりだけという状況を作り上げてしまいます。
これが後になってみれば実によくできた運命で、ここ本当に綱渡りもいいところ。
話作りがうまいなぁと感心させられました。
そこから先はもうあれよあれよとピンチの連続。
コロコロとかわる状況に、90分間時間を忘れてのめりこみました。
最初の導入で予想していたストーリーのスケールを、軽く凌駕する展開量に感服。なんて濃い話だろう。
甘くみていた私の完敗です。
セオリー通りの展開で観客の快楽中枢を刺激することもあれば、重要なところではまったく先を予想させない展開の連続。
特に後半部に入ると、どんどん窮地に陥って、これじゃもう助かりようがないじゃないかと思ってしまうくらい。
何度も何度もひっくりかえされる逆転劇はお見事。
観客の裏をかき、騙すのがホントうまい作品です。
この映画、もうひとりの主役が携帯電話。
劇中、この携帯の使い方もよく考えられています。
携帯というひとつのアイテムが持ついくつもの側面を、ストーリーに十二分にからめてゆく展開で、ああ、そういえばそんな機能があったなぁ!とおもわずポンと手をたたいたり。
「電池切れ」や「圏外」、「音漏れ」などといった身近な側面が、非常に緊張感の高いサスペンスを生んでしまうストーリーはお見事。
多彩なアイデアに舌を巻きます。
そのぶん、普通の映画なら切り札になるはずの銃が本来とは違う使い方で活躍したり、そういったところにもキレたセンスを感じます。
テンションの高いサスペンスとアクション、極めてクオリティの高い脚本が見所の作品ですが、ところどころ挟まれるコミカルな場面も粋。
ライアンが盗んだ車をブッ飛ばして周りが大混乱、道路がクラッシュの嵐になっちゃうシーンでは、ライアンの車体に「安全第一」のプリントがあったり。
そんなブラックジョークが随所にちりばめられていてクスクスさせられます。
配役はちょっと地味目でゴージャス感はないかもですが、とても味のあるいい役者さんたちです。
また、作品としての細やかな気遣いが隅々まで行き届いている充実感もあります。
伏線のはり方、回収の仕方がうまいのはもちろん。
ひっくりかえしてしまった金魚鉢のシーンのあとで、ちゃんと金魚を救出したフォローがちょこっと挟まれたり。
そういう些細なことでもフォローがあると、観ているこちらは安心してストーリーに酔えるというものです。
ちなみに原案は「フォーンブース」の脚本家ラリー・コーエン。電話をテーマに二本まったく違う味の映画を考えちゃうなんて、天才じゃなかろうか!
いやぁ映画を観る幸せを再認識させられた一本でした。
こういう映画をみると、「映画ってホント面白いよなぁ〜」って思っちゃいます。