ゲームサークルの友人DRRにイチオシと教えられた数日後、偶然にもバイト先の同僚に同じくオススメされ、ならば読まねばなるまいと手を出してみました。
これが正解。
現役医師が医療現場を舞台に描いたということで、現場の臭いが伝わっきそうなリアルさ。
下巻より登場のキャラクターが脳髄をゆさぶる凄いインパクト。
バチスタ手術という非常に難度の高い手術で、連勝を重ね続ける奇跡のような医療チームがあった。だがそのチームで、たてつづけに発生した患者の死亡。事故か、殺人か。調査のために抜擢されたのは万年講師の田口。田口の個性的な聞き取り調査によって、徐々に医療現場の歪みが現れる。
前半の田口パートは、筆者が現役医師ということもあり、医療現場がとてもリアル。非常に興味深いものがあります。
多少「嘘」もあるのでしょうが、そのへんはそれこそ医者でもないとわからない所だと思うので、読み方としては「雰囲気作りがリアルだ」というスタイルがよいかと。
これを鵜呑みにして「医療現場はとんでもない!」と怒り心頭になったりすると、まぁちょっとピントのずれたことになるかもしれません。
フィクションの空気作りが非常に上手い作品だと、私はそう受け取りました。
チーム・バチスタと通称される医療チームが、今回の舞台となり、田口はそのメンバーに次々インタビューをしていきます。
この、どれも一癖も二癖もある人物たちの聞き取りによって、表面的には非常にうまく行っているように見えていた現場が、実は裏側にイロイロと隠していたことが出てくるあたりが面白い。
それぞれの証言から見えてくるのは、筆者のこめた医療現場への批判・警告なのでしょうか。
私の母親が元看護婦なので、イロイロと内部事情をほのめかしてくれるのですが、その話を聞くかぎり、なかなか病院ってのは表面どおり信用できるところでもなさそうです。
母親が階段から落ちて脊椎と右腕を骨折したとき、頑なに入院を拒んだことがありました。
自宅で家族一丸になって必死に療養した結果、本復とはいかないまでも一人で大体のことができるまでに快復したのですが、「入院したら帰って来れないような気がした」なんて冗談っぽく言ってました。そんな空気があるのかもしれませんね。
まぁそこまでは強迫観念的で大げさかもしれませんが、そういったところを思い出してしまいました。
医療現場の隠された実態・・・・・・なんてのに興味がおありの方はこのへん面白いでしょう。
さて、そういった病院内の空気に慣れた頃、後半より登場の探偵役・白鳥によって作品の空気はガラッと爆発的に変わります。
この白鳥を表現するのに、登場人物の一人は「ロジカル・モンスター(論理怪獣)」と呼びましたが言いえて妙。
全ての行動が論理的に組み立てられているのですが、それがあまりに突飛で型破りすぎて他人にはまったく理解不能。
人を人とも思わないような無礼千万さで頭ごなしに批判をぶつけ、相手を激怒させ、人間関係をムチャクチャにしてしまいかねない傍若無人っぷり。
まず白鳥に会って、誰もが最初に受ける印象は「癇に障る」「むかつく」というものでしょう。
ところがこれらの行動全てが白鳥の計算のうちだったりするのですね。
なんというか、憎みたいんだけど憎みきれず、かといって惹かれるかというと、それもなんだかちょっと腹が立つ。
誰もが心と頭脳をひっちゃかめっちゃかにされちゃうようなタイプなんですね。
ひじょーに強烈なインパクトの探偵像です。
この白鳥が、難解にからみあった真相を強引に、かつ極めて論理的に分解してゆく過程が実に爽快。
真相にふくまれていたものも、なかなか考えさせられる印象深いものがあって後味もじんわりきます。
医療現場への批判・警告といったメッセージを、非常にインパクトの強いエンターテインメントに乗せたつくりは成功でしょう。
社会性と娯楽性を兼ね備えた、非常に強力な作品だと思います。
この田口・白鳥のコンビはシリーズ化され、第2巻「ナイチンゲールの沈黙」、第3巻「ジェネラル・ルージュの凱旋」と続いていますが、本作は一冊だけで完結した物語となっており、独立して楽しむことができます。
また、本作は映画化が進んでおり、今年2月9日には全国東宝系で公開。そこにも期待はかかります。
白鳥役には阿部寛。ちょっといい男すぎるかもしれませんが、インパクト充分。ピッタリの配役でしょう。これは「トリック」の上田次郎を連想しますね。
そして、田口役にはなんと竹内結子。田口さんが女になっちゃった!
でもそう言われてちょっと読み返してみると、たしかに田口さんって女性っぽいかもしれませんね。
白鳥に翻弄されている田口さんのシーンなんて、女性のほうがしっくり来るかもしれません。
これが英断となるか愚挙となるかは作品を観てみないとわかりませんが、私はけっこうイケると思いますよ。