2007年12月20日

読書感想 グイン・サーガ 118

グイン・サーガ118巻『クリスタルの再会』の感想です。

 充実のクム編が終了し、舞台はうってかわってパロ編へ。
 今度どんなドラマが待っているのでしょうか。

 ネタバレ注意!



 身勝手なグチばっかりで、なんだかちょっとマリウスに腹がたってくるこの巻。
 うーん、たしかにマリウスの言っていることは至極もっともで、宮廷なんかに閉じ込めてたらマリウスの本当の才能は死んでしまいかねないっつーのはわかりますが。
 マリウスの気持ちもとてもよくわかるんだけどなぁ〜。
 しかしまぁその相手が、ケイロニアのようにすべてが行き届いたところなら聞き分けてもらえたのでしょうけど、今のパロではねぇ。
 パロのみんなだって苦労してるんだから、あんただってちょっとは苦労しなさいってドヤされても仕方ないわけですね。
 マリウスにはこのパロの人々の苦労というのを、ちょっとは理解してもらいたいなぁ。
 そしたらちょっとは協力的になるんじゃないかと思うのですよ。
 栗本先生の筆致にもマリウス叩きに誘導するようなけぶりを感じます。
 いや、これもしかするとミスリーディングかもしれないなぁ。
 マリウスが、実は隠れた才覚を目覚めさせ、王者の気風を発揮し始める前フリだったりしたらドビックリ展開なんだけれども。
 いやぁそれはないですね、あのマリウスに限っては。



 ブラン、涙の別れ。
 返り討ちを望んでグインに切りかかろうとするブランに、いち早くそれを察知してそれとなく背を向けるグイン。
 男と男の強い絆の上でのかけひきと言うべきか。
 熱い名シーンがまた生まれました。
 このシーンのグインの行動、同じ事を他のキャラがやると鼻につくかもしれませんね。
 たとえばナリスあたりがやると、相手はナリスに敵わないと思いつつも小馬鹿にされた気分になって、「なにくそチクショウ」って根に持っちゃうかもしれない。
 でもグインの場合、相手の心理を読んだ上で、ちゃんと相手のこともまわりのこともすべて配慮がゆきとどいている深い心配りが感じられて、こういう策士な行動も鼻につかないんでしょうね。
 むしろ大きな度量にうたれ、巨大な器にとりこまれる「安堵の諦念」、そこから生まれる「新たな覚悟」のようなものが、ブランにはあったんじゃないでしょうか。
 いやしかしブランさんもいい人でした。
 次に出てくるのはだいぶ先かな?
 次はカメロンの手先として大活躍して欲しいですね。
 ゴーラ編の楽しみがまた一つ増えました。



 リンダとの再会は、グインの記憶がうんともすんとも言わずにちょっと肩透かし。
 しかし今回の再会シーンの目玉は、なんといってもスーティこと小イシュトヴァーンとリンダの初対面でしたね。

「けっこんしゅる? おねたん、

  しゅーたんとけっこんしゅるか?」


 おそるべしスーティ!
 3歳にならずして恐るべきタラシの才!!(爆)
 父親の血のなせるわざか、それともこれは父をさえ凌駕する新たな英傑の才覚か!!(爆)

 おおいに笑わせてもらいましたが、いやでもここは冗談はおくとして、とてもいい感動シーンでした。
 あの戦いの日々と、悲劇、そしてそこからずーっと続いてきた激務の日々に、リンダはとても心を疲弊させていたことでしょう。
 自分でも気づかないけれども、芯から疲れ切っていたのじゃないでしょうか。
 そのリンダの胸の中に飛び込んだスーティが、どれだけ彼女の癒しとなったか計り知れません。
 スーティを抱き上げたリンダの瞳からこぼれ落ちた涙から、多くのものを感じました。

 あたたかい幼児の体って、とっても心安らぐものですよね。
 スーティのぬくもりから、あらためてナリスとの間についに子をなすことができなかった不幸を思い出してしまったのでしょう。

 しかしそれだけじゃなく、深いものをわたしは感じてしまいました。
 スーティのあの、人の心をことごとくとろかし、とらえてゆく魅力。
 そしてスーティがイシュトの生まれ変わり(いや、イシュト死んでないけど!)のようにあまりにそっくりなことが、なんだか運命の予言のように見るものをとらえるのかもしれません。
 つまり、まるで父たるイシュトが破壊して、歪ませ、滅ぼしてきたもろもろの事柄を、この子供がすべて清浄に、穏やかな世界にもどしてくれるんじゃないだろうかという、あたたかい予感のようなものです。
 誰もがひと目でスーティのたぐい稀なものを感じ取り、そして触れ合うひと皆が心にあたたかいものを得ていくというこれまでの現象が、もうすでに「世界の癒し」のはじまりのように見えます。
 ブランが言っていた、

「イシュトヴァーン・ゴーラが誕生したのは、この英明なお子を王といただくためではないか」

 という言葉もむべなるかな。むしろそうであって欲しいと願います。

 リンダの涙は、そういう「癒しの予感」を直感し、そして信じたからこそこぼれた「幸福の予感」の涙のようにも見えました。

 「神は奪いたまう。そして神は与えたまう」

 ですね。
 難しくてなかなか言い表せませんが、そんな不思議な感動がこのシーンにはありました。
 口絵カラー採用も大正解。
 この目を細めたリンダが実に複雑な表情を秘めていていいです。



 グインの記憶ですが、今までずっと「ただの転移事故」だとばっかり思わされていたのがまさかまさか!
 外部の要因による、恣意的なものの可能性がでてまいりました。

 今までは記憶喪失はただの事故で、グインがこれで方々を旅することによって、いろんな登場人物が介入することができ、かつ彼らの口から今までのグインの活躍が語られるという、いわば「これまでのおさらい」としてとてもいい手法だな、くらいにしか私は考えていませんでした。
 そうであれば、この「これまでのおさらい」が終了し次第、なにかの衝撃を受けるとともに記憶全快っていう展開だろうとタカをくくっていたんでですがねぇ。 
 これは思ったよりもやっかいそうです。

 リンダのイメージとしてずっとグインがいだいていた女性像は、あきらかにアウラその人でしょう。
 話の流れからすると、記憶を封印したのはこのアウラのようです。
 グインが星船を破壊したことを、アウラは怒ってグインの記憶を封印したのでしょうか。
 それとも他の理由によるのでしょうか。
 なんにせよこれはただでは記憶は戻りそうにないですねぇ。



 リンダついに覚醒か!
 グインへの愛に気づいたリンダ。
 まぁしかしそれはいろんな意味で許されない愛ですね。
 どうやったって結ばれる可能性はゼロに等しい。
 たとえばシルヴィアが失脚し、その上でパロがケイロニアに併呑されるような大変動でも起こらない限り、この二人が結ばれることはありえないでしょう。
 リンダにとっては、気づいてしまわなければ良かった悲しい愛なのかもですねぇ。

 あるいは、本質的に強いリンダのことです。
 この愛を胸に秘めて、心の支えとしてこの後わりきった政略結婚をできるかもしれませんね。
 アドリアンだってきっと悪い夫ではないはずですし。
 クムのタリクはありえないでしょうけど、アドリアンは充分ありでしょう。
 そのうち、それもやはり幸せだったのだと納得することもあるんじゃないかなぁと思いますよ。



 傑作だったのが、リンダがフロリーを見ての、

(胸はあんまりないわね――そう、胸は確実に私のほうがあるわ。〜〜)

 のリンダの独白。
 女性ってこういうこと意識して品定めするんですね〜。
 おお怖いw



 あらたな展開の始まったパロ編。
 「グイン、記憶を失いつつもパロへ着」の報はここから世界中を駆け巡り、グインは嫌でも表舞台に戻らざるを得なくなるでしょう。
 次にどんな展開がまっているのか、近傍はなんとなくわかっても中長期スパンではさっぱりわからない。
 とりあえず次の巻が待ち遠しくってしょうがないですね。
posted by BOSS at 00:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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