2007年12月13日

読書感想 『The Book』 乙一作 小説ジョジョ

The Book
jojo's bizarre adventure 4th another day



「貴様、新手のスタンド使いか!?」


 人気漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の第4部を舞台として、小説家・乙一がオリジナルストーリーで書き下ろした新作小説。
 全編に乙一のジョジョ世界に対する愛が溢れています。
 これはジョジョファンなら買いでしょう。



 吉良の事件から半年が過ぎ、杜王町は冬。岸辺露伴と広瀬康一は、偶然奇妙な死体を発見する。その人は、完全な密室で、交通事故に遭っていたのだ。彼らはスタンド能力で捜査を始める。
 一方、ごくふつうの女子高校生・双葉千帆は、ちょっと変わった少年・蓮見琢馬と知り合った。千帆が小さな頃、不良にからまれたときに救ってくれた少年だと思うが、蓮見は自分ではないと言う。
 この蓮見という少年は、「他の人には見えない本」を持っている。この本には彼が生まれてからこれまでに体験したこと、全てが書かれているのだが、それだけではなくさらに特別な力を秘めていた。
 彼はこの本の力を使って、ある計画を着々とすすめていた。
 東方仗助や虹村億泰、山岸由花子というおなじみのメンバーが登場し、次第にひとつの運命に巻き込まれていく。
 杜王町の冬に起こった、ある悲しい事件の物語。


 当然ジョジョファンとして気になるのは、「どのくらい忠実にジョジョワールドが再現されているのか」というところでしょう。
 私もこの小説を読むまでは、そこが気がかりだったのですが、そういった意味では危惧は杞憂で終わりました。
 読んでみればそんな心配などすっかり忘れ、ジョジョ世界に没頭している自分に気づいたのです。

 随所にいかにもジョジョらしい演出、細かな工夫が散りばめられており、乙一先生なかなか考えたなぁ〜と唸らされます。
 冒頭の奇妙な事故現場の発見場面など、「いかにも荒木先生が描いたような」演出です。
 そういった場面はいたる所にあり、紙面に書いてなくとも、どこからともなく「ゴゴゴゴゴ・・・」というあの音が聞こえてきましたw
 自然と脳内ヴィジュアルは荒木先生の絵になっているはずです。
 症状が進めば、私のように「コマ割り」まで見えてくるでしょうw


 作者本人は、独特なセリフまわしに苦労して、最後までそれは思うようにはならなかったというようなことを言ってますが、私としてはあんまり気にならなかったところですかね。
 たしかに、仗助がこんなちゃんとした話し方するかなぁとか、ちょっと思った場面はありましたが、そのへんは充分大目に見られる範囲。

 むしろ上手いことやったなと思ったのは、そういった弱点をカバーしつつ強みを出す作戦に出ている点です。
 この小説で主人公となるのはオリジナルキャラクターの蓮見琢馬。
 彼が人知れず自分の能力を使って行く過程で、仗助たちとすれ違い、知り合っていくという構造です。
 本来の主人公チームである仗助たちは脇役となって登場し、蓮見の目から描かれるという形となっているんですね。
 作者の思い入れたっぷりに作られたオリジナルの蓮見は、独特の性格と、その能力も含めて魅力たっぷり。
 その視点から描かれる仗助たちですから、そう頻繁に登場しないことで穴は目立ちませんし、ちょっとくらい印象が違っても、他人から見たらそう見えるかもなぁっていう理屈が成り立ちます。
 さらに言えば、彼ら主人公チームを外から見たらどんな風に見えるか、再確認させてもらえる視点でもあったりして、そこが非常に興味をひきました。
 あらためて考えると、仗助って面白い性格だなぁとか、ザ・ハンドって怖い能力だなぁ〜とかね。
 他人から見たらこう見えるんだ〜って、けっこう納得させられますよ。


 本編はいくつかのストーリーがバラバラの細切れに語られる形で、なかなか真相がみえてこないものだから最後までひっぱられます。
 語り手となるキャラクターが何人もいて、時間軸もいくつかに分かれており、最初はなにがどうなるのやらさっぱり。
 巧みなミスリーディングにひっかかって、ふりまわされる快感がありました。
 いくつかのストーリーが次第に寄り集まってひとつの運命を形作っていく構成は、サスペンス小説の形式ですね。
 第4部の小説として、実にぴったりな手法だと思います。


 ラストの2連戦は迫力、緊張感ともに充分。
 けれんみたっぷりに、考え抜かれたカラクリいっぱいのバトルが楽しめて、「おー、これはジョジョだねぇ!」って嬉しくなっちゃいました。


 原作者荒木先生は、第4部執筆時には悲しい話を描こうとして、なかなか踏み込めなかったと、対談でおっしゃってました。
 悪役には悪役の背景があったりして、悲しい話だったりするような、そんな話を描きたいんだけれども、それを描いてしまっては少年漫画にはならないという危惧だったようです。
 吉良には吉良の重い事情があったってことですね。
 第4部で、自分自身がやろうとしてやれなかったことを、この小説ではやってくれているという、荒木先生の言葉に、ほほーって思ったのがこの本を購入した一番の動機でした。

 読み終わってみれば、これは第4部の正式なサイド・ストーリーとして認めてもいいじゃないかというくらいの感動でした。
 これぞ「ジョジョ的人間賛歌!」という思いでした。
 それも、小説でないと描けないタイプの。
 作者乙一は当然その点を誰よりもよく熟知して書いたはずです。
 そういうアプローチを感じました。
 また、この小説いっぱいに、杜王町やジョジョ世界への、深い愛情と強い思い入れ、なかなかすばらしい洞察が感じられました。
 私もジョジョファン歴長いですが、なるほどそういう解釈もあったのか〜と唸らされました。


 真面目な小説としてだけでなく、肩の力の抜けたパロディ精神が豊富に発揮されているのもひとつの見所。
 随所に第4部の「知ってる人ならわかっちゃう」いろいろな人物、名所が所狭しと登場し、「知ってる人ならニヤリとしちゃう」それっぽいセリフもいろいろ飛び出します。
 知らない人が読むと違和感なしにスルーしちゃうような、こういう場面ですが、ディープなファンならニヤニヤ笑いが止まらない、嬉しくなっちゃうサービスですね。
 また、第4部ファンにはとても気になる「あの仗助の秘密」についてもグッと踏み込んでいます。ここも見逃せないポイントです。


 終わってみれば、乙一という新手のスタンド使いの素敵な策略にはまっていたことに気づく一冊。
 この本こそ、彼のスタンドに違いないッ!!


posted by BOSS at 21:12| Comment(0) | TrackBack(2) | 読書感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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Tracked: 2008-01-09 10:34

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