ティム・バートン監督による人形ストップモーション・アニメ。
人形達が驚くほどに表情豊かで演技上手。ダークでちょっと切ないファンタジー。
金と地位のために親同士が勝手に決めた結婚が迫る若い二人のカップル、ヴィクター(声:ジョニー・デップ)と、ヴィクトリア(声:エミリー・ワトソン)は、最初は乗り気でなかったのだが、しかし出会った瞬間互いに恋に落ちてしまう。
俄然結婚式にも身が入るヴィクターだったが、どうにも結婚式の儀式を上手く覚えることが出来ないでドジばかり。ひとり夜の森の奥で儀式の練習をしていた。
ヴィクトリアの指に見立てた枯れ木の枝に指輪をはめて、誓いの言葉を唱えた瞬間奇跡が起こる。なんと死者が蘇り、ヴィクターに婚礼の申し出を受け入れると言い出したのだ。
蘇ったのはウェディングドレスを着た花嫁の死者(コープスブライド)エミリー。彼女はもうヴィクターにメロメロだ。はたしてヴィクターの運命やいかに。
『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』で大人気となったティム・バートン監督の人形を使ったストップモーション・アニメふたたび。
ご存じない方のためにこのストップモーション・アニメというものを一応説明しておくと、これは小さな人形を1枚撮影したら、ちょっと動かしてまた撮影し、またちょっと動かしては撮影しと、何度も何度も繰り返し、その写真をパラパラ連続して観るとあたかも人形が動いているかのように見えるという、まぁパラパラ漫画の応用なのですが、まぁご想像の通り、それだけで一本の映画を作るためにはそれこそ膨大な撮影時間を要するのですね。
まさに職人芸のなせるわざ。
今世界にこれだけの作品を作れるスタッフは他にはいないでしょう。
アニメーションの技術もさることながら、独特の世界観、造形美術、そしてティム・バートン映画では恒例のダニー・エルフマンの大げさで華麗でどこか懐かしく切ないような音楽が織り成す心躍るような素晴らしいファンタジーです。
今回は人間側のヒロイン・ヴィクトリアと、死者側のヒロイン・エミリー(声:ヘレナ・ボナム=カーター)の板ばさみとなってオタオタする喜劇的展開がおたのしみ。
死者といってもこのゾンビのエミリーがまたなんとも不思議と魅力的。
目玉は外れて中からおしゃべりな毛虫が出てくるし、手も足もところどころ骨だったりするのだが、表情といい性格といい、実に女らしい気分屋でそこがいい。
不幸な事件に巻き込まれ、幸せな結婚を得ることができずに死んだ彼女は、土の下でずっとパートナーを待ち続けていたのだ。
そこへヴィクターが誓いの言葉を投げかけてくれたのだからそれはもうこの上のない歓喜だ。
そんなちょっと健気というか憐れな彼女だからこそ、たとえゾンビとはいえ無碍には断れないのがヴィクター。彼もとっても心優しい青年なのですね。
というわけで始まるヴィクターの、地上の可憐な乙女と、地下の憐れな乙女の間で揺れ動く物語。
驚いたのが人形達の表情の豊かさ、雄弁さ。
これは『ナイトメア〜』以上の出来で、実に素晴らしい。
人形にまさに生命が吹き込まれている様子だ。
死者の国の住人達の個性豊かな造形もおみごと。
このバラエティー豊かなガイコツやゾンビたちの地下のダンスショーはひとつの見所。
『ナイトメア〜』で歌と踊りに魅せられたファンには少々残念なことに、今作ではあまりそういったところにパワーがない。
数曲わくわくする曲はあるが、全体的に、作品の中で音楽が占めるところが減ったような印象。
その分重視されたのが、主人公達のドラマ部分で、今回は表情豊かな人形達の演じるそのドラマが非常に気になって最後まで観てしまいます。
そして、やっぱり『音楽』がやっぱり重要な役割を担っているんだなぁと思えるのが、二つのシーンでピアノを介して男女の関係が変わってゆくところ。
特に中盤でのヴィクターとエミリーのピアノのシーンはとっても素敵。
プンプン怒ってスネているエミリーと、なんとかあやまってなだめようとするヴィクターとの連弾(?)で、曲の移り変わりと、ふたりのコロコロと変わる表情がまた素晴らしい。
人間側のヒロインを完全に食ってしまった感じのゾンビ・エミリーが全編魅力全開。
これはたしかに人形アニメーションでないと出来ない相談だ。
実写でもCGアニメでも、とたんにこの作品グロくなってしまうでしょうからね。
かつてないチャーミングなゾンビを是非ご覧あれ。