若きジョニー・デップが、手だけが未完成な人造人間を演じる『おとぎ話』。
未完成ならドラえもん状態にしておけばいいのに、博士はなにを考えたかハサミをつけておいたところがミソ。
純粋な若者たちの切ないラヴ・ロマンス。
天才科学者が死の間際に作り出した人造人間エドワード(ジョニー・デップ)は、ほとんど人間といっていいくらい完璧だったが、手だけが未完成でハサミをつけられていた。未完成のままひとり、町外れの大きな城に残されて、寂しく暮らしていたエドワードのところにある日、化粧品訪問販売のペグ(ダイアン・ウィースト)がやってきて彼を見つけ、家に連れて帰ってしまう。エドワードにはハサミの天才的な才能があり、庭木のアートな刈り込みから女性の髪の創造的なカット、そして氷の彫像までなんでもござれ。エドワードは次第に町の人気者になってゆく。エドワードは、ペグの娘のキム(ウィノナ・ライダー)に一目惚れする。ところがキムには既にボーイフレンドがおり、そのうえキムはエドワードを気味悪がってしまう。エドワードの恋の行方やいかに・・・。そしてエドワードは人間社会への不慣れゆえに、次第に大きなトラブルに巻き込まれてゆく。
エイリアン4を観てウィノナ・ライダーやっぱりかわいいなぁ〜って思って借りてきました。
監督のティム・バートンは『ビートル・ジュース』や『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』『マーズ・アタック』などで大好きな監督さんで、独特の魅力があります。
お話は「お婆ちゃんが、夜寝付けない小さな娘に語って聞かせるおとぎ話」というスタイルで、冒頭おばあちゃんが語り始めるところから始まり、最後もおばあちゃんの話でしめくくる。
全体をお得意のファンタジー色に仕立てています。
舞台は現代のアメリカの片田舎なのですが、物語の予定調和や人物描写がおとぎ話なんですね。
だから細かい突っ込みとか、リアリティとかはノーサンキュー。
素直な気持ちで楽しむのがベターなんです。
おとぎ話スタイルということで、やさしくてとても純粋な登場人物の心に、素直に感動することが出来ました。
ジョニー・デップ演じる人造人間エドワードの悲しみ、寂しさ、苛立ち、恋する気持ち、切なさ・・・・・・。
外見は立派な若者でも、心は無垢でナイーブな子供のままのエドワードの、ピュアなキャラクターが実に魅力的。
女性ファンに人気があるはずです。
誰もがきっと「守ってあげたい」って思っちゃうはずです。
そしてウィノナ・ライダー演ずるキムもとっても魅力的。
普段映画出演する際には髪を必ず黒で染めるウィノナ・ライダーですが、今回はアメリカン若者ムービーにおけるお決まりの記号で、金髪のチアガール。
最初こそエドワードを気味悪がるのですが、エドワードの純粋さと優しさ、自分に恋していることに気付いてくると、徐々に変わっていきます。
この変化の過程が非常に魅力的。
いつものベリーショートで黒髪の透明感のあるウィノナ・ライダーとは一風変わって、男の子の理想としてのヒロインタイプを演じる彼女もチャーミングですね。
このふたりの、「女性なら誰でも恋せずにはいられないエドワード」と、「男性なら誰でも恋せずにはいられないキム」というキャラクターが、この作品の大きな魅力でした。
エドワードの手を、よせばいいのになんでまた天才博士はハサミにしてしまったのやら。
ドラえもんスタイルにしておけばよかったのに、ハサミなんかにしたもんだから全編非常にハラハラさせられちゃいます。
タイトルどおり、このシザーハンズが素晴らしいアイデアです。
自分の事もしょっちゅう傷つけてしまうらしく、エドワードの顔は傷だらけ。
なにをやっていても観客はこの刃物の塊が何かを傷つけないかとハラハラドキドキ。
芸術面で活用するときにはハサミ使いも天才的なのに、実生活ではいたって不器用。
物を持ったり、食事をしたり、人と挨拶したり、何をするにも危なっかしいのだ。
女の子を抱きしめようにも、傷つけてしまいそうで抱きしめられない。
そんな、人との間に距離を置いてしまいたくなる、コミュニケーションへの二の足を踏んでしまう、臆病さの象徴でもあるのでしょう。
四苦八苦するエドワードと、ハラハラする観客がうまくリンクする面白い道具です。
外部から見れば、シザーハンズはあるときは魅力的でも、やっぱり異端者の象徴で、恐怖の対象であり、誤解の的。
彼自身にとってはコンプレックスと恐怖の象徴なのでしょうね。
こういったところが、「おとぎ話」であるこの作品を至極単純な「おとぎ話」のまま共感を呼ぶ、複雑で現代的な若者らしい悩みを表現させることに成功したポイントなのではないでしょうか。
ラスト付近、意外と激しい展開を見せて、なんと暴力沙汰にまで発展し、最後にはやさしさに満ち溢れた感動で締めくくられます。
お婆ちゃんが娘に語って聞かせたラストはしかし、大人が聞けばちょっとした矛盾に気付いてしまうでしょう。
小さな娘ならわからなかったでしょうが、これを観る大人は誰もが気付くんですね。
しかしこれは、このお婆ちゃんがわざと隠して話さなかったことなのではないでしょうか。
大人はそれに気付いていても、ほじくって聞かないのが大人ってやつで、それこそが大人のおとぎ話ってやつなんだと思う。
お婆ちゃんの事情もいろいろ察して、深くは追求しないのがよいというものです。
初恋って、そういうものなんじゃないかな。
少年少女時代の初恋の純な気持ちを思い出したくなる、切なくって優しい気持ちになる物語だ。
これはいい。