電話を切ったら殺される。
正体不明のスナイパーに命を狙われ、電話ボックスで釘付けにされるサスペンス。
物語のほとんどが、ひとつの電話ボックス周辺だけで展開される挑戦的な作品。
スチュ・シェパード(コリン・ファレル)は自称一流のパブリシスト(広報担当。芸能業界の売り込み屋)。だが実際は上から下までウソで塗り固められた宣伝マン。
今日もニューヨークを軽快に闊歩しつつ情報を操作する。
仕事の合間にちょっと一息と、この界隈にひとつしかない電話ボックスに入り、結婚指輪をはずして浮気相手に電話。
電話が終わってボックスから出ようとすると、電話がけたたましく鳴り、スチュは思わずそれに出てしまう。
それが事件の始まり。電話の声は今、スチュをライフルで狙っていると言う。
声の主はスチュの日常を事細かに知っていて、浮気をしていることを妻に告白しろと言う。
脅迫されているとは知らずにスチュにからんでくるチンピラが声の主に狙撃され、事態は悪化。
スチュが撃ったと誤解を受け、電話ボックスは警官隊に包囲されることに。
狙撃犯と電話ボックスに釘付けのスチュ、警官隊とかけつけた妻、浮気相手。
緊迫の展開のなか、スチュの選択ははたして?
電話ボックスひとつだけで映画1本を展開させると聞いて、どれだけ狭い空間の話だかと心配していたが、そんなことは微塵もなかった。
むしろ開放的で人通りの激しい通りの一角にありながら、誰の目にも留まらないたった1台の電話ボックスという、町並みの中の盲点、落とし穴のような面白さがよかった。
脚本はなかなか練られており、電話ボックスに釘付けにされたスチュの、次々と変化する苦境に固唾を呑んでひきこまれてしまう。
どうなるどうなる?とハラハラドキドキ最後まで目が離せない緊張感の密度が高い作品だ。
電話の脅迫犯とスチュのやりとりがまず面白い。
脅迫犯はスチュの生活の細部まで知り尽くしており、スチュには犯人の心当たりがない。
疑惑と恐怖が入り乱れ、感情がかき乱されるスチュ。
必死に懇願したり探りをいれたり出し抜こうとしたり。
犯人もスチュをあざ笑うかのように翻弄しまくる。
ちょっと説明するとすぐネタバレになりそうで具体的なことは書きにくいのだが、犯人が過去を吐露する下りなど最高だった。
スチュのシチュエーションは詰んでしまうギリギリ一歩手前だ。
犯人は完全にスチュの生殺与奪を握っており、まわりは大通りで人も多いのに状況はすっかり孤立無援。
警官隊がかけつけてくるがそれはスチュを発砲犯と勘違いしてのことで、運悪くスチュが発砲したと言うデタラメな証言者もいて状況は最悪。
このなかでスチュがいかに行動するか、次にどう電話に答えて言うかが非常にスリリング。
警官がスチュに「どうして電話を切らないんだ?」と質問するシーン。
脅迫犯はスチュに「ごまかせ」と命令。
そこでスチュの生来のウソの才能が発揮され、口からでまかせがポンポン出てきてしまう。
自分の才覚を喜べばよいのか恨めばよいのか、スチュも複雑だろう。
かくて長時間のにらみあいが始まってしまう。
スチュは機転を効かせて気付かれないよう携帯電話をONにして警察に連絡しようと苦心するが・・・・・・それがはたしてうまくいくのか、とか、実にこれだけ狭い空間の中で様々なギミックが楽しめる。
犯人もかなり用意周到で、終盤にもいろんな仕掛けが用意してあり気を抜けない。
なかなかのサスペンスだ。
スチュの自己批判とか、普段ウソばっかり言っている人の自己嫌悪とか反省とか、共感できる所もあると思う。
しかしただもうこの作品は緊迫感いっぱいの展開こそが見所だろう。