人類の近未来。
全ての女性がなぜか子供を産む能力を失ってしまい、世界は絶望に包まれ滅びゆくばかり。
最後現れる希望を目にした兵士たちの対応に、人類への皮肉が隠されている?
人類がなぜか子孫を残せなくなってしまった時代の西暦2027年。
最後に生まれた子供で、世界で一番若いことで有名だった少年の死が、ショッキングなニュースとして大々的に報じられていたりする近未来SF。
元活動家で今は役所の職員になっているセオ(クライヴ・オーウェン)のもとに、活動家時代の恋人から、無理矢理な依頼が来る。
不法入国者の黒人女性をある場所へ送るための通行証を手配してほしいというのだ。
通行証は手配できたが、保護者同伴が条件となり、仕方なしにセオはその黒人女性キーに動向することになるのだが、なんとありえないことに、キーは8ヶ月の妊婦だったのだ。
SF映画とはいえスターウォーズのようなスカッとするエンターテインメントではなく、とにかくシリアスでリアルなドラマ。
ポリティカルサスペンスや、戦争ドキュメンタリーのほうが雰囲気としては近いかもしれない。
また崩壊の近い世界といっても、火山噴火や津波が襲ってくるわけではなく、秩序の崩壊が主だった内容。
かろうじて表面上秩序をたもてているロンドンにテロの自爆攻撃が起こり、あちこちで反対勢力が実力行動に出始めている無秩序状態なのだ。
この映画非常にショッキングなのは、さらっとイギリスの他の世界が滅びていたりすることだ。
実際どうなっているかはわからないが、混乱のなかイギリス国民が手に入る情報としては、イギリス以外に生き残りがいないようすなのだ。
政府は厳重な管理のもと国民を保護しようとするが、続々と不法入国者はやってくる。
これにむけられるのは徹底した差別の扱いだ。
まるで強制連行のような扱いで人々が引っ立てられてゆく。
根底に流れているのは人種問題であり、差別問題、移民問題なのだろう。
映画はこれを世界の終局という極限状態の人類になぞらえて皮肉に描いてゆく。
紳士の国イギリスも、イザとなったらここまでやってしまうかもしれないという恐ろしい未来像というわけだ。
大なり小なり今もこういうことは行われているよっていうことなのだろう。
中盤テロリストのアジトから脱出して以降、しばらくセオが靴を失って裸足同然→サンダル履きなのがまたよい。
傷つきやすい足の心もとなさが、この不安定な旅の心もとなさそのものなのだ。
最後瓦礫の中を行く際、ゴリッと石くれに足を取られ、そのあと足を引きずってゆくシーンがあるが、これは本当に間違って役者が足をひねったのではないだろうか。
足の取られ方が実にリアルで痛そうだった。
もっとも素晴らしいシーンは、どう説明しても完全にネタバレになるで伏せ、鑑賞の楽しみにしていただくとして、緊張感がよかったのがいくつかあるカメラの長まわしシーン。
特にラスト付近、主人公の孤軍奮闘が素晴らしい。
テロリストが潜伏する不法移民居住区を軍が攻撃してくる非常事態の中、たったひとりでさらわれたキーを追いかけてゆく。
6分以上にわたる長い、壮絶なこのシーンはどうみてもつなぎ目がわからず、まるで一台のカメラでずーっと主人公をつかずなはれず撮り続けたかのように見えて手に汗握る。
シーンの途中、至近距離の着弾でカメラのレンズに血しぶきが飛び、それ以後その滴がつきっぱなしというのも作為的だが臨場感がある(実はこの血糊はCGらしい)。
実際にはこの作品のいくつかある長まわしは、デジタル技術による編集で作られたもので、いくつかのフィルムをつなぎあわせて作ったものらしいのだが、どう目をこらして見たところでわかるものではない。
観客としては切れ目なく続く緊張感と臨場感にどんどん引き込まれてゆくだけなのだ。