イカサマ師グリム兄弟が本物の怪異に立ち向かう。
グリム童話をモチーフに、監督テリー・ギリアムが独特の世界にブレンド。
ウィル(マット・デイモン)とジェイコブ(ヒース・レジャー)のグリム兄弟はペテン師。
怪物騒ぎを起こしてはそれを解決して見せ、大金をせしめる、そんなイカサマであちこちの村々を荒らしまわっていた。
ところがそのイカサマがばれ、当時ドイツを占領中のフランス当局に捕まってしまう。
フランスの将軍は処刑をちらつかせながら、あることを兄弟に命令する。
兄弟のペテンと同じような怪異が、とある村で起こっている。
その怪異を起こしているペテン師を捕まえて来いというのだ。
だがその怪異こそ、正真正銘の本当の怪異なのであった・・・。
物語上、グリム兄弟はまだ童話作家としてのデビュー前。
今回本物の怪異と出会い、イマジネーションを得ていくという構図っぽい。
さらわれる少女たちは「赤ずきん」だったり「ヘンゼルとグレーテル」の「グレーテル」だったりする。
あちこちにグリム童話のエピソードが散りばめられており、それが監督テリー・ギリアム独特のブラック風味に味付けされているのが楽しい。
こまかいギミックがまた一々楽しい。
カタツムリの拷問箱や、巨大ミキサーマシーン、妖気探知機、投げたら戻ってくる魔法の斧、池を凍らせる金の指輪と、魅力的な小道具が満載。
こういったものに、グリム童話ならではのエピソードや小道具が加わって、映画がなかなか賑やかなことになっている。
最近ファンタジー映画には事欠かないし、少々VFX映像に食傷気味の人も多いだろうが、そのなかでもこの映画は表現面のセンスにすばらしく飛びぬけている。
特に押したいのは「取り憑かれた馬」の場面。
あのイマジネーションは他にはない狂気を感じる。
まさにテリー・ギリアムのブラックな世界だ。
夢のあるファンタジーや、壮大なファンタジーもいいが、狂気のファンタジーも、やっぱり人を惹きつける重要な魅力だ。
テリー・ギリアム監督は『未来世紀ブラジル』や『12モンキース』などで、ブラックな世界を得意としてきた監督。
大概ストーリーは不条理感いっぱいで、観終わってさっぱりするものではない。
個人的には子供の頃に『バンデッドQ』にショックを受けて以来、そのどこか崩れた世界に魅了されてきた。
今回もそうとう意地の悪い不条理な話を持ってくるんじゃないかと予想していたのだがさにあらず。意外と素直な話だった。
ちょっと期待はずれかとも思ったが、より一般受けはするだろう。
モチーフがグリム童話だけに、子供でも大丈夫・・・・・・かと思う。と思ったらPG-13か。ちょっと怖いシーンが多いかもね。
表面的にはたしかにまろやかにはなったが、しかし根底に流れている精神はやっぱりテリー・ギリアム。
映画の中心となっているのが現実と虚構の対立なのだ。
直近の構図として、兄弟の対立が現実と虚構の対立となっており、さらに大きな構図としてドイツの古い森と、それを焼き払おうとするフランスも現実と虚構の対立構図となっている。
この構図がテリー・ギリアムの脳そのものなのかもしれない。
劇中どちらの勢力が勝利をおさめるか、その顛末は御覧になってのお楽しみとするとして、いっぽう監督の脳内では、あきらかに虚構の世界が完全勝利しているようである。
個人的にお気に入りは、ちょっとトチ狂った拷問役カヴァルディ。
あのネジが一本抜けてるようなバカっぷりと、実はお人よしだったりするところが楽しくてよい。
どこかで見たことがあるとおもったら、『アルマゲドン』でロシア人宇宙飛行士をやった人だった。どうもああいうおバカな勢いの演技が彼の十八番のようだ。
最近流行の、ただ派手な映像面ばっかりが宣伝されるファンタジー映画とは一味違う、ブラックな子供の悪夢のような世界がこの映画の魅力だ。