次々と送られてくる脅迫ビデオに、夫婦は追い詰められてゆく。
忘れ去っていたはずの、昔の罪に直面させられたとき、男の見せる表情とは。
ある夫婦の家に、ビデオテープが次々と送りつけられてくる。
そのテープの映像は、ただひたすら夫婦の家の玄関を写し続けているものだったり、夫ジョルジュの生家や、関係者の家の前を写しているものだったりする。
ビデオを包んでいる包み紙には、子供が色鉛筆で描いたような稚拙な絵が描かれているが・・・・・・その絵は血を吐く人間だったり、首を切られた鶏だったりと、不吉さを臭わせる。
だがこの作品、犯人探しに汲々として頭を使ってばかりいると最後煙に巻かれることになる。
「犯人は皆さんの想像におまかせします」というタイプの作品なのだ。
なのでオススメしたいのは、登場人物たちの心理描写をじっくりと楽しむ観方だ。
その点で優れているのが、盗撮カメラの視点という設定だ。
定点カメラでじっくりと撮るので、緊迫した空気、登場人物の一挙手一投足からにじみ出る動揺が静かなリアルさで伝わってくる。
どうしてもカメラを動かして近寄って、わかりやすい過剰な演出、演技を期待したくなるこのような緊張の場面で、この作品はあえて遠巻きに定点カメラから静かに見守る。
このため観客は逆に乗り出して画面にのめりこんで行きたくなるのかもしれない。
これが静かな説得力のあるリアリティながらも淡白にならず、緊張感、動揺を表現する力となっているのだろう。
ラストシーン近くのエレベーターのシーンも同様。
ここは盗撮カメラからの映像ではないが、手法としては一緒で、カメラを固定してエレベーターに黙って乗る2人の表情をじっくりと撮っている。
エレベーターに乗っている時の沈黙というのは、ただでさえなんだか嫌なもので、あれってなんとかならんのかなぁと思うものではあるのだが、それを上手く使った緊張の演出だ。
ただ2人がエレベーターに乗り、何人かの同乗者が先に下りたり、また乗ってきたりするだけなのだが。
カメラが2人をフレームに同時に収めるのに、鏡を利用したのもよい。
複雑な画面構図になんとも不安感を煽られるし、どことなく力関係を暗示しているような気がする。
記憶の闇に葬ってしまったはずの罪というのは実に手に負えない。恐ろしいものだ。
ふとしたはずみで顔をもたげてきて、うわーーッと叫びたくなる衝動に襲われるような経験は、誰もがもつものだろう。
ジョルジュが抱える罪悪感も、同じようなものだ。
忘れられるものならば、忘れ去っておきたいし、そうしておくのが誰にとってもきっと平和というものだろう。
だが、問題はそれが何者かによって掘り起こされ、白日に曝されようとしているということ。
過去が、現在に追いついてくるという恐怖だ。
ここでジョルジュがどうするのかが焦点なのだ。
正直「真相は想像におまかせ」タイプはあまり好きではないが、そう知って割り切ってしまえば、演出は光るし役者たちの演技も冴えている。うーんとうならされてしまう。
制作側の策略にはまって、「これはどういう意味だったんだろう・・・」と悶々と考え続けさせられるのも、たまにはオツというものかもしれない。