2007年06月27日

映画感想 ドッグヴィル

満足度91点(レンタルDVD)
 ニコール・キッドマン主演。
 舞台劇のような、セットを思い切って簡略化して、その奥にあるものを曝け出した奇妙な映画。
 人間の暗部が、徐々に曝け出されていく過程が実に苦い。
 恐ろしいとか、怖いとかいうと適切ではない気がする。苦いのだ。
(070627加筆訂正)




 とある山奥の寒村ドッグヴィルに、正体不明の美女グレース(ニコール・キッドマン)が逃げ込んできたところから物語は始まる。
 ギャングに追われてきたらしい彼女をかくまうことに最初は怖気づいていた村人たちも、彼女の人間性に触れることで心を許してゆく。
 集会で全員一致(といっても、小さな村なので15人だ)して彼女をかくまうことにした村人たち。
 最初のうちは、なごやかに、いかにも都会から離れた寒村の素朴な、貧しいが穏やかな生活がやってきたように見えた。
 だが、落とし穴は見えないところに潜んでいる。
 それは、村人たちの心。
 ゆっくりと、だが着実に、村人たちの心の闇が曝け出されてゆくのであった・・・。

 この映画のまず目を引くところは、そのセットの奇抜さ。
 舞台劇のような実に簡素な作りで、実際撮影スタジオ1フロアーだけで事足りていると思われる。
 スタジオの床に白線を引いて家や菜園を表現し、それらの、壁も扉もない家々の中に最低限の家具を配置して、村全体を表現しているのだ。
 そこに住む村人たちは、さもそこにちゃんと寒村の家々が立ち並んでいるかのようにパントマイムで日々の生活を演技する。
 音響効果も工夫してあり、透明な扉をノックすればノックの音が響き、狭い室内でしゃべればその声がちゃんとこもって響く。
 このちょっとファンタジックな閉鎖空間でドラマは開始し、終了する。

 これが単に奇をてらっただけの手法なら驚きはしないのだが、実は計算された意地の悪い表現だったりする。
 中盤グレースがある村の男にレイプされるシーンがあるのだが、レイプされる家の隣家で、同じ画面上に何も知らない女たちが会話しているのだ。
 壁がないものだからレイプ現場のすぐ目の前なのだが、そこには壁があるから気づかないのだ。この構図はびっくりさせられた。
 こういった仕組みが、後半の苦さへとつながっていく構造だ。

 まず、助けを請う美女というだけでも、「甘美な毒」だろう。
 ちょっと踏み外せば、自分を見失いかねない罠だ。
 だがこの映画のさらにタチの悪く踏み込んだ点が、その女が「完全に弱者の立場」にあるというところだ。
 村人たちは、一人ひとりがグレースの死刑宣告のボタンを握っている。
 警察やギャングに通報するだけで、彼女の希望を断つことがたやすくできてしまうのだ。
 小さな子供でさえ、それを知っていて簡単にグレースを強迫することができてしまう。
 はじめは和やかに、友好的だった村人たちが、ちょっとしたはずみで知らず知らずのうちにこの罠にはまってゆく。
 いつの間にか彼らはグレースを虐待し、奴隷のように扱い始めるのだ。
 口々に「お前のためなんだよ」とかもっともらしいことを言っているところがなお恐ろしい。

 人は誰しも、相手が完全な弱者であると思い、自分が正しく、強い力を持っていると勘違いしたときに、ふとした事で、自分では気づかず過ちに落ちてしまう可能性を秘めている。
 相手がまったく抵抗できず、完全に敗北している状態では、人は自分でも驚くくらい理不尽にも、残酷にも、無関心にもなれてしまう。
 それも普段まったくそういった素養をもたない善良な人間であっても、そういう過ちからは無縁ではない。
 そしてなお恐ろしいのは、自覚症状がなかなかないということだ。
 ちょっとでも自分がそれに気づきそうになったり、誰かに指摘されたりすると、本能的にか、何重もの言い訳を作って正当化してしまうものだから、異常な行為は次第にエスカレートすることになる。
 こういう本当なら見たくもない人間の側面を、この作品はまざまざと白日に曝してしまう。
 前半のストーリーがゆったりと牧歌的に進んでゆくだけに、後半のこの、それまで美しく見えていた景色がグズグズと腐って崩れ落ちてゆくような展開は実にスリリングだ。

 ラスト、こういった作品にはめずらしいくらいスッパリと結論が出される。
 曖昧にごまかしてオシマイということはない。
 スッキリしているわけだが、だがやっぱり苦い。
 はたして、自分がドッグヴィルの住人だったらどうしていただろう・・・やはり・・・と思ってしまう。
 観る人をかなり選ぶ作品だと思われる。鑑賞の際にはご注意を。
posted by BOSS at 01:34| Comment(2) | TrackBack(0) | 映画感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
しまった!
携帯から文をいじろうとしたら後半を消してしまった!
修復作業は帰ってから!
Posted by BOSS at 2007年06月27日 09:28
 ということで修復しました〜。
 というかPCにマスターを残しておかなかったものだから、完全に書き直したわけですが( TДT)
 まぁそのぶん文章が推敲されたってことでよしとするか。かなりヘコんだなぁ〜。

 ついでに満足度を89→91に2点アップさせました。
 なんとなくね。
Posted by BOSS at 2007年06月27日 20:17
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