言わずと知れた和製本格ヒロイック・ファンタジー剣劇漫画『ベルセルク』が、ついに劇場三部作化。
本作品はその一作目となる、言わば序章であり、主人公ガッツと物語の重要な運命を担う男グリフィスの出発点を、充実した筆致で描いた本格作品となっている。
あらすじ
世は戦乱の時代。
剣ひとつを頼りに傭兵として乱世を渡る青年ガッツ(声・岩永洋昭)は、知勇兼備の美青年グリフィス(声・櫻井孝宏)率いる傭兵部隊・鷹の団に入団。
それまで荒んだ空気を持っていたガッツも、様々な人物と触れ合ううちに、徐々に仲間と言う意識に目覚めてゆく。
ガッツとグリフィスは、友情と一言では言い表すことのできない不思議な絆で結ばれるようになる。
野心に邁進し、貴族に取り立てられ、さらに出世街道をひた走るグリフィス。
そのグリフィスの夢のため、汚い仕事でも買って出るガッツ。
だが、その行く手に誰もが想像もしなかった存在が現れ、そしてそれは恐るべき予言をふたりの青年に残してゆく。
暗雲、垂れ込め始める物語。
と、今更説明するまでもないあらすじを一応。
今回の劇場版三部作は、ベルセルクの長い長い物語の中でもいわゆる「黄金時代篇」と呼ばれる、鷹の団入団〜その結末までを描くらしく、今回はガッツ入団からと“ある暗殺事件”までが描かれておりました。
今回のベルセルクプロジェクトは劇場版三部作だけでは終わらず、どういう形でかは知りませんが、すべてを映像化する10年以上にもわたるプロジェクトになるかもしれないとのこと。
その壮大なプロジェクトの記念すべきスタートが、こういう形で切られたということなのでしょう。
今回はそのスタートに相応しく、ド派手にかつ丁寧にベルセルクの魅力的な世界、人物たち、そしてなにより迫力のアクションを描いてくれました。
まずは映像面ですが、戦闘シーンがとにかく大盛りてんこ盛り。
冒頭のド派手な攻城戦シーンがまず凄い。
3DCGをふんだんに使い、膨大な数の兵士たちが突撃し、迎え撃ち、ぶつかり合う様子。
それぞれの兵士が個性的な鎧や武器を身にまとい、モーションキャプチャーでぬるぬると動いて見せてくれるこの快感。
モーションキャプチャー独特の固さはこの際、この壮大さで目をつぶってよいと感じました。
カタパルトから発射される投石や、さまざまな攻城兵器が投入される戦場のディテールの面白さも注目でしょう。
なるほど、中世の戦場はこういう光景だったのかと、中世ヨーロッパ風ファンタジーファンは特に細かいところまで興味をそそられる仕掛けが一杯。
こういった風景をアニメで再現してくれたことに、本作品のひとつの大きな意義があるのではないかと、私は観てて感じました。
冒頭のもうひとつの見所といえば、ガッツとバズーソの一騎打ち。
戦術に徹した冷徹な戦闘がドーッと繰り広げられたかと思えば、やぁやぁ我こそはと名乗りを上げて、我に挑む者はおらんのかー!と見得を切ったりする。
こういうどこか、のどかな騎士物語の「決闘」も共存していて、そういうところのギャップが実に面白いと感じさせられました。
あと、このバズーソ様役のケンドーコバヤシさんがけっこういい演技していて感心しちゃいましたよ。
まぁ序盤のちょい役ですから、いわゆる芸能人枠としてちょっと拙い演技でも苦笑いして楽しめるかなーとかタカをくくっていたのですがとんでもない。
野太い声で、しっかり大男の迫力を演じられておりました。
そしてやはり期待してしまうのが、ガッツの巨大な剣で繰り広げられるアクション。
これに関してはたくさんの方が賞賛を送っておられたように、なかなかうまく表現していました。
あれだけ巨大な剣を振り回すというのは、そもそも人間ではほぼ無茶な動きであるわけで、それに説得力を持たせるのは並大抵の事ではなかったと思います。
重心の置き方、振りかぶり、振り下ろす加速度。
ぶつかった時の跳ね返り。
いろいろと研究されたことでしょう。
個人的には、剣が叩き付けられた時の音が気に入りました。
当たる箇所によって音に細かい違いができていて、材質や部材の厚みを感じさせてくれて、大剣を握るガッツの「手ごたえ」が伝わってきました。
こういうこだわり、大切なところです。
アクションはここからわんこそば状態でどんどん描かれて、冒頭から中盤まで息つくヒマもなし。
ひとり旅を始めたガッツに鷹の団が襲い掛かる箇所では、キャスカ(声・行成とあ)が剣とクロスボウをからめたフェイント攻撃をしかける表現がうまかった。
言葉で一切の説明をしないというのがいい。
原作にないオリジナルのシーンかと思いますが、キャスカという若い女性がいかに男の世界である戦場でのしあがってきたのか。
そういったところに説得力を持たせてくれました。
こういうオリジナルは私は歓迎ですねー。
また、目をさましたガッツが起きぬけにグリフィスと行う決闘も、剣の殺陣とはまた違ったよさがありました。
とにかく全編アクション満載。
ゾッドとの絶望的な戦いも充分なボリューム感で語られて、よくまぁこれだけの要素が2時間に詰め込めたものだなと感心してしまいます。
そのわりに、原作からこのシーンは削除されたなーというのを特に感じさせなかったのも大したものだと。
登場人物の関係性が徐々に変化してゆくエピソードのひとつひとつが、とても丁寧にわかりやすく描かれているんですね。
なるほど、ここはこういう重要な意味を持っていたのかと、原作ファンである私もあらためて明確に気づかされる面も多々ありました。
長い話を劇場版に編集しなおした時によくある、「ああもっとボリューム費やしてそこは描いて欲しいのに! でもまぁ2時間でやるにはこれがベターか」というジレンマなどが、私は一切ありませんでした。
あ、いや、鑑賞前にあえて私は原作を読まなかったのでそう感じただけで、しっかり原作を読み込んでから鑑賞にのぞむと、また違った感触が得られたかもしれませんけども。
ちなみに、今回はガッツの子供時代のエピソードがざっくり省かれて青年篇からスタートしますが、おそらく第二部か第三部で回想のかたちで描かれるのではないでしょうかね。
原作でもそれに近いシーンがあったはずなので、そのあたりで効果的に使われるのではないかなと、個人的に期待しております。
これだけ丁寧な筆致で戦いや人物描写、必要なエピソードをしっかり描かれていれば、原作未読者であっても十二分に楽しむことができるのではないかと思います。
むしろここからベルセルクに入って原作にポロロッカ(逆流)するのも面白いかもしれません。
未読のかたにも是非観ていただいて、ベルセルクの魅力にハマッていただきたいと思います。
いやー、ここから続く第二部、第三部が今からとても楽しみです。
オープニングアニメーションがまた、面白い仕掛けがしてありましたね。
なんでこの人やこの人が出てくるの!?っていう、たぶん劇場でご覧になった原作ファンの皆さんが驚いた事でしょう。
これからベルセルクプロジェクトがどんな動きをしてくれるのか、いろんな面で期待の高まる劇場版第一作でありました。
■映画『ベルセルク 黄金時代篇T 覇王の卵』公式サイト
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