2011年01月10日

映画感想 相棒‐劇場版 II‐警視庁占拠!特命係の一番長い夜

満足度91点ワーナー・マイカル・シネマズ板橋にて鑑賞)
 今更説明するまでもない、テレ朝日自慢のドラマシリーズ 『相棒』 の劇場版第二弾。
 警視総監はじめ警視庁トップの 12 名全員が人質に取られるという、史上最悪の警視庁立てこもり事件を発端に、実に相棒らしい警察内部のドロドロの暗部をえぐりまくる政治劇が展開。
 最後に衝撃のラストが待ち受ける、なんとも話題性豊富な作品となりました。
 ファンには意見が二分しそうな結末ですが、私はかなり満足でしたぞ!

【注意】
 以下、感想は決定的なネタバレを回避して書いています。
 これから劇場版を観に行くかどうか、参考にしていただいて大丈夫です。
 もしコメントをいただける場合には、ネタバレ回避にご協力をお願いいたします。

相棒II


あらすじ
 警視庁会議室に集まっていた警視総監以下 12 名の幹部全員は、突如乱入してきた男・八重樫(小澤征悦)によって、あっという間に人質として囚われてしまう。
 情報が漏洩しないよう秘密裏に対策に動き出す警視庁とは別に、怪しげな策動が隣の警察庁庁舎でも始まる。
 杉下右京(水谷豊)、神戸尊(及川光博)の特命係は対策本部とは別に動きだし、素早く犯人の特定に貢献。慎重な対応を主張するが、その努力も虚しく、立てこもり現場への強行突入が決行されてしまう。
 強行突入と時を同じくして、人質となった幹部達の機転によって立てこもり犯・八重樫を取り押さえることに成功。
 しかし、もみ合いのさなか、八重樫の持っていた銃が発射され、八重樫は死亡してしまう。
 事件は解決。八重樫の死は正当防衛として処理されることになるのだが、特命係だけは違った。彼らは独自に殺人の線を追い始めるのだった。



 といった感じでスタートする今回の相棒。
 劇場版前作は、いかにも娯楽作品を目指した大作映画といった感じでしたが、今回こそはザ・相棒
 いかにも映画といった感じの、見た目の派手さやスケールのでかさこそ前作に劣るものの、相棒の大きな魅力である、「政治劇」「警察暗部」 に真っ黒いスポットが当てられているのであります。


 相棒というドラマシリーズにはそれこそたくさんの魅力があって、杉下さんの熱弁であったり、相棒同士の反目や、楽しいかけあい、信頼であったり、脇をかためる登場人物の濃厚な魅力であったり、脚本の妙や幅の広さであったり、それこそたっくさん、挙げ始めたらキリがないくらい。
 しかし、私が思うに、その大きな魅力の中心を支えているのが、組織の暗黒面に大胆なメスを入れる、大人のドラマであるってところだと思うのですよ。

 警視庁や警察庁、法務省に公安に、時には防衛省と。
 日本の治安を任された様々な立場の人物達が、権力闘争をくりひろげ、駆け引きをしたり、陰謀をめぐらせたり、手を結び合ったり。
 それぞれが安直な出世欲などを理由としてではなく、あくまで日本の未来のためと、誇りと確信を持って暗闘を繰り広げる。
 しかしそのどこかが間違っている。
 間違っているからこそ、歪みが生じ、犠牲者を生む。
 そういったところに決然と立ち向かい、ぶつかっていき、怒り、苦悩し、熱弁をふるうのが杉下右京一番の魅力だと思うのです。
 自分の信じた正義のために、間違っているものは間違っているんですと、はっきりと物申す。
 でも、そんな杉下さんだって全てが正しいわけじゃない。
 時には屈してしまうこともある。
 けれども、でも絶対折れないし、あきらめることはしない。
 そこが杉下さんの魅力であり、相棒そのものの魅力のコアだと思うのですよ。

 その杉下さんと、対極の位置に配置されているのが、杉下さんとは腐れ縁と言ってもいい官房室長・小野田公顕(岸部一徳)です。
 この二人の対決が大きな盛り上がりを見せる今作こそ、ザ・相棒と言ってなんら差し支えないと思うのですよ。
 むしろこんなドラマをこそ待っていましたと。
 日本の治安のため、いったいどうすることが一番の正義なのか。
 杉下の正義か。
 それとも小野田の正義か。
 スリリングな問いかけに、実に興奮させられる、素晴らしいストーリーでした。


 さて、物語面としてはそんなスリリングな政治劇を堪能させていただいたわけですが、キャラクタードラマとしてもこれがまた見所いっぱい。
 冒頭から意外な行動力と大胆さを見せる杉下さんにまず注目。
 ロープを使ってのビル壁面登攀アクションでは、華麗なステップにトキメキました(笑)。
 いやもう杉下さん、何をやらせても素敵過ぎます。

 また今回神戸くんと大河内さん(神保悟志)の友情ドラマ、そしてぶつかり合いも熱かった。
 まさか神戸くんに、あんな熱い一面があったなんて。
 大河内さんも人間味に深みが出て美味しかったですねー。

 そして田丸警視総監(品川徹)や金子警察庁長官(宇津井健)の政治家的な駆け引きも渋くていい。
 こういう渋い駆け引きドラマは、大好物であります。
 この品川徹さんっていう俳優さんは、あまりメジャーな方ではないと思いますが、先日観た 『沈まぬ太陽』 でもいい渋さでした。
 お、今調べたら 『功名が辻』 では松永久秀だったんですか! ピッタリですな!(笑)
 ほほー、声優業もやってらっしゃるようで、『未来警察ウラシマン』 とか、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』 にも出てたんですね。
 ふむ、ちょっとこれから注目してみようっと。

 あと、今回ゲスト出演の小澤征悦さん、小西真奈美さんもいい仕事してました。
 てっきりこの二人がメインとなってドラマが動いていくのかと思いきや、後半完全にフェードアウトしていったのはオドロキでしたが(笑)。
 でも前半の人情ドラマを盛り上げてくれたお二人、グッジョブでした。


 全体に良くできている劇場版ですが、一応難点もちょっとだけ挙げておきますと、盛り上げどころとそうでない平板なところがはっきりしていないといったところではないかと思います。
 全般に緊張感が高く、次々と新事実が明るみに出て、良い意味で言えば息をもつかせぬジェットコースタームービーであるわけですが、悪い意味で言ってしまえば盛り上げどころが分かりにくい。
 やや一本調子な印象が頭の隅をかすめたかもしれません。
 これは脚本が悪いのではなく、おそらく音楽や編集や演出でどうこうできる技術面の話だと思いますねー。
 いや、私もそんな詳しくないので見当はずれかもしれませんが。
 ここはあえてトーンダウンするところ、ここで観客を引っぱるところ、ここで一気に観客のドギモを抜いて、そしてここでドカンと盛り上げ、でもって次にしんみりと感動をと、そんな感じで大きな波、うねりを作る作業がもっと必要だったんじゃないかなぁ〜と。
 まぁなんとなくですが、そんな事を思いました。
 やはり1時間枠のテレビドラマと、2時間の劇場版を作るのではそういったところで勝手も違うでしょうしね。
 まぁでもそのへんはあくまで、あえて言えば、というレベルの話です。
 私は次々出てくる新事実にどんどんのめり込んで、あっという間の2時間だったなぁと、そんな感じでした。
 半分いかないうちにトイレに行きたくなったのですが、切れ目がまったくなくって結局最後までガマンしちゃいましたから(笑)。


 愛あり友情あり、陰謀あり衝突あり。
 たくさんのキャラクターがそれぞれしっかり活躍どころを与えられて。
 もちろん警察モノとしてのミステリーもしっかりと。
 芯となる部分に、相棒らしい政治ドラマが真っ黒く鎮座して。
 なかなか良くできたバランスの、テレビドラマ劇場化でありました。


 あとそうそう、たしかにこれを相棒初心者が劇場版のみで楽しもうと思ったらちょっと難しいかもしれません。
 テレビ版がこれまで 10 年培ってきたお約束や、人間関係、これまでの膨大なドラマを知っていればこそ、本当に満足できる作品かもしれません。
 しかしそういったものを存分に楽しんできたファンにとっては、大きな衝撃と満足が訪れる作品であると思います。
 いや、もちろんあのラストには、これからの相棒の展開を危惧する向きや、納得の行かない向きもあるかもしれません。
 相棒という物語に、大きな転機が訪れることになりますからね。
 だからこそ、ぜひともファンには観に行って欲しい作品であります。
 これを観ずに、次の相棒テレビシリーズは観られないと思いますよ!

 私は少なくとも、これは凄いものを見せてもらったと、満足させていただきました。
 心に残る、名場面であります。
 きっとこれからの相棒を、大きく動かす最重要のターニングポイント作品となることでしょう。
 大胆な決断をした制作陣に、拍手であります。



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