2010年08月21日

コミック感想 賢い犬リリエンタール 1

 デビュー作の読切 『ROOM303』 から BOSS が応援し続けている、葦原大介先生による初連載作品。
 とっても不思議な力を持った喋る犬リリエンタールと、ちょっとおかしな家族たち、隣人達が繰り広げる、優しさ一杯にあふれるハートフルコメディ作品です。
 週刊少年ジャンプ誌上で惜しまれつつも完結し、コミックス全4巻が先日発売されました。
 ということで、今更ながらですが1巻から感想を書いてゆこうと思います U・3)




 まずもってジャンプの最近の打ち切り作品で、ここまで素晴らしい完成度の高さと、胸を打つあたたかさに満ちあふれた作品にはお目にかかったことがありません。
 打ち切りというよりも、長期連載作と比べても稀有な作品と言っていいでしょう。
 ラストのしめくくりも、突然の打ち切りとはまるで思えない、あの 『バオー来訪者』 もかくやというとっても綺麗な〆くくり。
 完成度の高さは絶品です。
 4巻で終わる名作として、是非たくさんの人に読んでいっていただきたいと思える作品です。


 まずは改めて1巻を通して読んでみたのですが、いまだに目頭が熱くなるシーンがいくつもちりばめられているというのが驚きでした。
 そう、まったく感動が薄れてないんですね。これで読むのは何度目だって感じなのですが。
 まずは第一話の、怯えた少女をなぐさめる、リリエンタールの素朴な励まし。

「こわくないですぞ

 おにいさんとおねえさんがいますので」


 は、素朴すぎてちょっと笑えてしまえるくらいなのに、でもなんだか切なくなってしまうくらい純な感動があります。
 なんなんでしょうね、これ。
 私達はいろんな経験をつみ、いろんな言葉を覚えているのに、でも、ほとんど語彙がないリリエンタールのこのつたない言葉には到底敵いませんね。
 私達には絶対敵わないもの……それはたぶん、リリエンタールの一生懸命さ、真心なんだろうなと思うのです。
 実にあったかい。かっこいいのですよリリエンタールは。
 こんなにブサカワなのに、なんだかとってもリリエンタールはカッコイイ。
 そして、そのリリエンタールに影響を受けてか、まわりの人たちもあったかくなってゆく。
 この広がってゆく優しさに、胸打たれずにいられません。

 第一話ではまた、黒服の刺客として現れたアキラのピンチを救ったときのリリも捨てがたいですね〜。
 なんで助けたんだと聞くアキラに、

「なんで…? なんで? ? ?

 くらいところにおっこちるのは

 こわいですぞ?(キリッ)」


 ですもんね〜(笑)。
 笑いが漏れつつ、涙がこみ上げてきてしまう。なんとも不思議な胸の熱さを体験させてくれる。
 素晴らしい第一話であります。
 この熱さ、他の漫画ではまったく体験した事のない、実にワンダーな体験でありました。

 他にもこの巻には、一生懸命なリリエンタールの感動がいっぱい。
 “ダンボールハウス”のベッドを作ってくれちゃったちょっとイジワルなてつこに、心の底から嬉しがるリリエンタール。
 もとは石の床で寝ていたという驚きの告白。
 その夜、そのリリエンタールの身体に毛布をかけてあげる、やさしいところの現れるてつこ。
 それを陰ながら見守っている兄もいいですね。

 そしてクライマックスは幽霊のマリーを救うリリエンタール。

「おうちにはてつこもあにうえもごむぞうもいるのです!

 きっとさみしくないですぞ!!」


 誰もが成仏させてしまえばそれでオシマイと考えていたところで、まさか幽霊を家族にしてしまおうというとんでもない逆転発想。
 リリエンタールの誰にでも向けられるおっきな優しさに、目頭ぶわーなわけですが、それと同時に、この日野家で一番 「さみしくないですぞ!!」 を感じているのは、リリエンタール自身なんだよなぁ、だからこのセリフなんだよなぁと、そこでもやっぱり目頭ぶわーなのであります。
 いやもう、こんなに素敵なあったかい感動をくれるリリエンタール。愛しすぎちゃってやばいです!


 そして、そのハートフルさと両輪をなすように、賢い犬リリエンタールにおいて重要な役割を担っているのがミステリーの要素でしょう。
 リリエンタールの不思議な力によって毎回のように発生する不思議現象の数々。
 これを解き明さないと普通の世界に帰れないんですから、意外と緊張感は高いです。
 そして、その緊張感を盛り上げてくれる、不思議現象の奇抜さ、ムードのよさ、ビジュアル面のインパクト。
 どれも童話の中にまぎれこんでしまったかのようなセンス・オヴ・ワンダーです。
 バスを襲ってきた巨大な古代魚のゾッとするような恐ろしさ。
 どこまでも続く登り階段のせいで、窓から下を見たら雲の上だったという、あの途方にくれてしまう感じ。
 テレビの中の人物が、突然リリエンタールのことを話し出した時の、世界が歪んでゆく音を聞くかのようなドッキドキ。
 そして、幽霊船に出て来てしまったときの、あのゾクゾクさせられる異世界感、恐怖。
 どれも心に残る名場面。素晴らしい演出でした。
 この新人離れした演出力。大したものです。
 幽霊船編は、ここまで単発のエピソードでやってきたリリエンタールの初の前中後の3話構成だったわけですが(正確には、2巻収録の「おまけ」のエピソードも含めて4話構成と見るべきでしょう)、これは大成功のエピソードだったと思います。
 

 また、賢い犬リリエンタールの面白さは感動やミステリーだけじゃない、キャラクター像の秀逸さというのもあるでしょう。
 魅力的なキャラクターというのはどんな漫画においても不可欠ですが、その魅力の方向性がやや昨今のジャンプ作品とは違っているように思うのです。
 それが顕著なのが、一巻では敵黒服たちの幹部であるシュバインさん。
 出来た人たちが多いこの作品のなかでも、特にシュバインさんの人の出来っぷりは目立っています。
 部下の失態に対して、それによって得られた情報をしっかり評価するというのが素晴らしい。
 罰として銃を取り上げるという措置は取りながらも、上層部からの情報も少なかったという冷静な分析も加え、しっかり部下の行動も評価するというのはとっても大きいです。
 この人の下でなら俺は働こうという忠誠心が弥が上にも芽生えますって。
 実に有能な上司像ですよ。
 また、必要とあらば老人を脅してリリエンタールの行方を探る、こわもての面も使いますが、不必要な乱暴はしないスマートさも素晴らしい。
 シュバインさんには、仕事としてどこまでも誠実に頑張っているという雰囲気があるんですね。
 善でも悪でもないというところが素晴らしい。
 もしかしたら敵に回したらこういう人が一番手強いのかもしれないと、そう思わせてくれるものが彼にはあります。
 普通ならこういう悪の組織の幹部といったら、もうちょっと分かりやすいシンプルな悪役だと思うのですが、そこのところがリリエンタールではまったく違う。
 逆に理想的な大人像、むしろ複雑でリアルな人間像を持ってきちゃうんですね。
 そして、そういったキャラクターがドラマを動かしてゆく。そういうドラマは、説得力がまるで違のですよ。
 漫画の都合だけで動かされていない、漫画世界の息吹があると、そう感じさせてくれます。
 これがリリエンタールの世界の、一つの大きな魅力であると思うのですよ。

 根底にあるのは、作者・葦原大介先生の、全てのキャラクターに対する愛だと思うんですよね。
 たぶん葦原先生は、登場人物全員大好きでしょう。
 そのうえで、一生懸命キャラクター一人ひとりが何を考えているか思考し、その視点になって次にどうするだろうかと考えていると思うのです。
 キャラクターに対する誠実さを感じるんですね〜。

 もちろん、シュバインさんのほかの人々も素晴らしく魅力的。
 リリエンタールのけなげさとアホさとかわいさは絶対無敵!
 スーパーマンの兄に、ツンデレのてつこもとってもいとおしい。
 天真爛漫な小悪魔ゆきちゃんはめちゃくちゃカワイイですし、切れ者の桜はこれが 12 歳かよってほどの渋いかっこよさ。
 そして、呆れるほどの人柄の良さと誠実さの吉良ライトニング光彦!
 このちょんまげナイトとリリエンタールの友情が私大好きであります。
 また、個人的にかなり好きなのがアキラとスーパーうちゅうねこ!
 彼ら2人の出会いとなるエピソードは、この一巻でも珠玉のコミカル回ですね〜。
 第一話では敵ながらあんなに頼もしかったアキラが、サングラスと銃をとったらこんなにダメ男くんになっちゃうのかと。
 しかしひょいとスーパーうちゅうねこを守ってあげたりと、何気ないところにアキラの人のよさが現れて、とっても嬉しくなってしまうのですよ。

 本当に、みんないい人たちばっかり。
 この世界は世界中がなにげないやさしさと愛であふれております。
 そのくせ人間描写は誠実。
 いや、だからこそその人たちの優しさがこんなにも嬉しくなってくるのでしょうか。
 リリエンタールという漫画を思うと、それだけで胸があったかいもので満たされてしまいます。

 さて、続きは2巻で。



■連載時感想
・第1話 賢い犬リリエンタール
・第2話 賢い犬リリエンタールとあかいかいだん
・第3話 賢い犬リリエンタールとちょんまげのきし
・第4話 賢い犬リリエンタールとすてきなおくりもの
・第5話 賢い犬リリエンタールとかわいそうな黒ふく
・第6話 賢い犬リリエンタールとおばけのあしおと 前編
・第7話 賢い犬リリエンタールとおばけのあしおと 中編
・第8話 賢い犬リリエンタールとおばけのあしおと 後編



■関連記事
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