主に私のやっている校正という仕事は、広告に掲載される商品の価格やスペックに間違いがないかどうかをチェックする作業なので、日本語表現のおかしさについては、広告として誤解を与えない限りは“二の次”だったりします。
おかしいんじゃないか?というところを追究して国語辞典とかひっぱってきてみんなで討論しても、そんなのは時間の無駄。もっと優先してやらなければいけないことはいっぱいあると。
また、訂正作業には時間もお金もかかるので、作業効率として考えたらそれが商売としては正解だったりする訳です。
ま、正しくはないけど、それが大人の世界ってことですね。
そんな感じでこの間もスルーしたのですが、いまだに妙に心に引っかかっている言葉があります。
それは、
「お待ち申し上げております」
という表現です。
たぶんみなさんもよく目にする言葉だと思いますが、大体
「スタッフ一同、お客様のご来店を心よりお待ち申し上げております」
というような文面で登場することが多いでしょう。
この言葉、気にしなければなんてことはない、商売上のよくある丁寧な言い回しなのですが、気になりだすと妙にひっかかるのですよね。
どこがひっかかるかと言いますと、「おります」 の部分なのです。
順に説明します。
「お待ち申し上げております」 を大雑把に分解すると、「お待ち」「申し上げて」「おります」 の3つに分かれます。
この場合、「申し上げて」 は 「言う」 という意味ではなく、「お待ち」 という言葉を謙譲して補強表現している意味合いが大きくなっているようです。
つまり 「言う」 が文章のキモではなく、あくまで 「お待ち」 という部分が一番大切な部分なわけです。
そこに 「おります」 とつくのは、「います」 という状態をあらわす言葉を、謙譲して表現している意味合いだと思うのですが、この 「おります」 が、最終的に文面の“主語”つまり例文でいうところの“スタッフ一同”を、文章のキモとしてしまっているように受け取れるのですよ。
つまり、「スタッフ一同で、お客様のご来店を待ってまーす!」 という文ではなく、「お客さんのご来店を待っている、私達がここにいますよ!」 っていう文章に読めてくるのですね。
「待っている」 ことがメッセージのキモではなく、「いる」 ことがキモになってしまっているように読めるのです。
なんかもう、凄く自己主張の強い、押しつけがましい文章じゃないかと。
なんであんたらが待っていることをそんな有難がって店に行かなければならないんだと(笑)。
なんか、そんな気にすらなってくるのです。
う〜ん、ちょっと考えすぎですかね。
「お待ち申し上げております」
どうでしょう。
皆さんは、ひっかかりませんか?
まぁ、私は校正という仕事をやってますが、あくまで日本語には素人。国語の研究家でも教師でもなんでもありませんから、私の言語分野への知識なんていい加減なものです。
だから、このひっかかりもぜんぜん見当違いなのかもしれません。
気にし始めちゃったらどんどんおかしく見えてくるという、あのゲシュタルト崩壊の一種なのかもしれませんね(笑)。
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ラベル:言葉
うーん、最初とくに妙だとは思わなかったんですが、何度も読むと、たしかにそのうち妙な気もしてきますね。文法的にはべつだんおかしくはないんでしょうけれども(たぶん)。
少々調べてもみた(手元の国語辞典で……調べたうちに入らないような)んですが、BOSSさんのおっしゃるとおり、「申し上げる」には、動詞の意味を補足する「補助動詞」の用法もありますよね。「いる」「おる」も、たしかに、先行の動詞で示されることがらが進行中であることをつけくわえる補助動詞です。
なので、「待っています」というのを丁寧にすると「待つ」という動詞ひとつだったところが「お待ち申し上げる」となって――これが単語でいうといくつと数えられるのかというのは、調べても微妙なんですが(「申し上げる」自体そうであるように、複合語なんてものがあったりするので)――なんか、見た目としては、丁寧にするために接頭語と補助動詞つけくわえてるみたいですよね。で、さらにそこに「おります」なんていう補助動詞がつくので、丁寧にするっていっても、くっつけすぎで頭の中で補助動詞が飽和状態になり、「おります」があふれてしまって、脳がそれを勝手に動詞「おります」として理解しようとしてしまう!・・・・・・とか?
と、これはBOSSさんのおっしゃることに付け加えなんですが。
もうひとつ思ったのが(この先は私の考えてみた説?です)、「申し上げる」がくっついて丁寧になる言葉の中で、「待つ」というのはけっこう異端なんじゃないかということで――
いま考えつくかぎりで「〜申し上げる」のほかの例をあげてみると、「ご挨拶申し上げる」「おいとま申し上げる」「おくやみ申し上げる」……とかで、もとの「挨拶する」「おいとまする」「くやむ」というのは、けっこう「言う」のに関係が深いですよね。で、かつ、「申し上げる」の前に「を」をつけることができる。ってことは、けっこう簡単に普通の動詞に戻れてしまう場合に、「申し上げる」という補助動詞が使われることが多いのではないか――と、本当に勝手な推測なんですが、思うんです。
そして、それ以外の言葉、それこそ「待つ」にくっつけると、なんか他の「〜申し上げる」と違う印象をうけて、これまたひっかかりを覚えることがなきにしもあらず……?なんてことも考えられます。
もしそうだったら、「待つ」と「申し上げる」の繋がりが弱い→「申し上げる」は普通の動詞に戻って?しまいやすい→動詞「申し上げる」には補助動詞「おる(おり+ます)」をつけて「申し上げております」にできる→こっちの繋がりのほうは言葉の組み合わせが一般的?、つまり繋がりが強い→「申し上げる」には補助動詞の役割もあるとはわかっていても、とっさに頭の中では「お待ち」がむしろ除け者にされて、「申し上げております」の部分で「(ずっと)言っているんですよ」みたいな解釈を(意識下で)してしまう→……え、聞いていないといけなかったことを聞き逃しましたか?なんか怒ってる?……という気分に→怒られていい気はしない。むしろ、怒られる理由はないので不快感。
――て、こともあるかもしれませんね。
なんか、えらくまじめくさってしまいました(笑)。
や、なんかこのフレーズに惚れてしまったです。
ちょっとカワイイ(笑)。
いや〜、私の思いつきにいっぱい考えていただいちゃったようで、恐縮であります。
グーグル先生で検索してみると、けっこうこの言葉に違和感を覚える人がいるようで、同様の記事がいくつか目に入ってきました。
でも、ハッキリとそれが正しいとも間違っているともわからないのが実情のようなんですよね。
まぁでも「おかしいんじゃない?」と感じる人が他にもいるんだなぁ〜と知って、私としては安心しました。
他にも探してみれば、こういう「考えてみたらおかしいのかも?」って言葉はたっくさんあるんでしょうね。