J-COMの抽選で当たりまして、珍しく試写会を観に行ってきました。
邦画の、恋愛ものにあたるんでしょうか、タイトルは 「おと・な・り」 。
今月末から全国公開される作品です。
ボロアパートの薄い壁越しに、顔を合わせたこともない30代男女が、それぞれの生活音だけで自然と心を通わせてゆく、そんな静かな物語。
30代というひとつの転機で、それぞれの登場人物がどう新たな一歩を踏み出してゆくのか、そんなところもひとつの見所です。
あらすじ
人気モデルの撮影に忙しい日々を送りながらも、本当は風景写真を撮りたいという思いを抱えるカメラマンの聡(岡田准一)と、フラワーデザイナーを目指して花屋でアルバイトしながら留学を控える七緒(麻生久美子)。同じアパートの隣同士である2人は、ともに30歳、恋人はなし。顔を合わせることは一度もないが、壁越しに聞こえてくる音は、いつしか互いにとって心地いい響きとなっていた。音を通して心を通わせるふたりの間には、恋が芽生え始める――。
というのが映画紹介文なのですが、劇中そのお互いへの恋心というのはほとんど描かれることなく物語は終盤へと向かいましたね。
中盤まで重要となるのは、互いが 30 歳にして迎えた、ひとつの大きな転機を、どう乗り越えてゆくのかというところ。
聡は人気モデルの専属カメラマンとして、七緒は花屋のアルバイトとして、それぞれ腰が落ち着き始めている 30 代。
その微妙な年代で、再度自分の夢を見つめなおして再出発をかけるのかどうなのか。
そういった人生の転機への希望や恐れや迷い、まわりの動揺やしがらみ、応援といったものが、なかなか共感を呼ぶ形で描かれていきます。
人生の転機という意味では、彼ら主人公たちだけではなく、聡の親友のモデルやその恋人、七緒のバイト先の後輩、コンビニの店長など、メインストーリーに絡まってくるキャラクターそれぞれが、いろんな意味での転機をむかえます。
この映画は、今 30 代の人、あるいはかつて 30 代だった人にはなかなかに身につまされたり、切なかったり、懐かしかったり、いろんな形で共感できるものではないでしょうか。
転機を逃してしまった人や、転機を掴んだけれども失敗してしまった人、なんとか掴んだけれども辛い経験だった人、首尾よく成功できた人、いままさに転機真っ最中の人、それぞれがそれぞれの体験を思い浮かべ、共感できるキャラクターを見つけ、居心地のよい視点を見つけられる、そんな映画なのかもしれません。
映画タイトルともなっている、壁一枚へだてて聞こえてくる音に恋をするというテーマですが、これは身近ながらもファンタスティックなアイデアでした。
鍵束の音や、コーヒー豆を挽く音、フランス語の練習をする声、鼻歌、色んな音がお互いの隣りにあって当然の、自然の生活音となることで、ないと逆に寂しいようになってくる。
そこから自然と木の芽が芽吹くように生まれる恋心。
お隣に若い異性がいるってだけでちょっと意識しちゃうかもしれませんが、そこはこの作品あまり強く押し出さず、むしろ全然意識していなかったはずなのに、音から好きになってしまったと、そのへんがファンタスティックで素敵。
クライマックス、壁越しに二人が心をひとつにするシーンは、若干ファンタスティックすぎると言われる懸念もあるかもしれませんが、わたしはアリだと思いました。
たぶんこれ、監督か脚本家の実体験で、すごくよく似たことがあったんじゃないだろうかと。
それを元に話を膨らませて行ったのが今回の映画だったんじゃないのかなぁ〜と、そう思いましたよ。
どうなんでしょうね。
ファンタスティックだからこそ、そんなことってあるのかもと思えてしまいました。
ここ、いいシーンでしたね。
ちょっとジーンときました。
一応マイナス面も書いておきますと、前述のテーマ 「30代の転機」 と、この 「壁越しの音の交流」 という二つのモチーフが、あまり密接には関係してこなかったところでしょうか。
そのへんは若干感じましたが、まぁ気にするほどのことでもなく、さらりと気持ちよく観ることの出来る素敵な映画です。
笑いどころも各所にあって、劇場各所からときどき笑い声も起きておりました。
オシャレ映画としては大人しめで若い人には退屈かもしれませんが、30代のデートムービーにうってつけな落ち着きのある作品でしょう。
あまり強く胸を打つような内容ではありませんが、観た後でさほど尾を引きずることもなく、さりとてガッカリさせるほどのものでもなく、丁度よく爽やかな気分で劇場を後にして、その後お酒でも飲みながら、あれってど〜よとか、ちょっとした話題にできるかもしれません。
そうそう、劇中、主人公の聡が親友のモデル 「シンゴ」 の名前を連呼するシーンがあるのですが、あれは正直ちょっと笑ってしまいました。
草なぎ剛くんの事件がこんなところに妙な笑いをもたらすことになろうとは、映画制作スタッフもビックリだったことでしょう。
■リンク
・映画「おと・な・り」公式サイト
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