2009年04月23日

コミック感想 シグルイ 12

 ちょっと前にレンタルコミックで 11 巻まで一気読みして、すっかりハマッてしまいました、『シグルイ』 の最新刊感想です。
 “武士道とは死ぬことと見つけたり”って感じで、死に狂うように凄惨に殺しあう男達と、その裏側で男達以上に情念にとりつかれた女達の、むせ返るほどに血生臭い時代劇です。
 過激な残酷描写で有名ですが、それ以上に、登場人物たちが互いにぶつけ合う、色とりどりの強烈な“我”にこそ私は目を奪われます。

【ネタバレ注意!】




 伊良子清玄に敗れ、仇討ちに失敗した藤木源之助と三重は、村はずれの農家の納屋を借り、最底辺の生活に堕ちていた。
 一方今をときめく伊良子清玄は、栄華を謳歌するだけに満足せず、不自由となったはずの足を利用する新しい型を着々と編み出していた。


 堕ちるところまで堕ちまくった藤木と三重が、がむしゃらに這い登ってくる怨念を、ビシビシと感じる一冊でしたね〜。

 まずはたった二日の修行で自分の新しい重心を体得してしまった藤木、やはりまぎれもなく天才です。
 体力の衰弱とか体重が軽くなったことによる不具合とかあるのかと思ってたんですが、まるで以前と変わらない鬼神の強さで峻安、月岡(星川生之助)の二連戦に勝利。
 月岡戦はまだしも、峻安に至っては一瞬でしたもんね!
 鬼のようなイメージ画まで出たもんだから相当の重要人物かと思ってしまいましたが、見事なまでのカマセ犬でした(笑)。
 しかし、その峻安が見てしまったものというのはなんだったのか。
 見たショックで人が死ぬほどのものというのは、いったい藤木はどんな凄まじい鬼に取り憑かれてしまったのでしょう。
 他の面々が強烈な外見と強烈な名言を残す反面、藤木は涼しい顔と無口な分目立ちませんけど、こいつこそ最高にヤバイ“死狂ひ”ですよね。

 そして三重のほうも今回はおっかなかった。
 買い物の苦労話とか、女人の足では藤木に置いていかれそうになるとか、そいう健気で可哀想な描写は素晴らしい騙し。
 目の前にいくを認めたとたん、あの 血染めの白無垢姿 にとってかわったイメージ画はゾッとさせられました。
 怖すぎです。
 そして最後の “紅を差す乙女”
 こえーッての(笑)。
 しかしまぁ、なんでこう女性の狂気ってのは美しく艶っぽく見えてしまうんでしょう。
 シグルイは狂気の美学といいますか、情念をとことん磨き上げ、尖がらせすぎて狂った人間の散り際こそが美しい、というような美学があると思うんですが、それにしても三重の狂いっぷりはどうしても眼を奪われるものがありますなぁ。
 徹底してこの巻では三重のことを 「乙女」 という呼称で描写しているんですが、この狂い方こそが、作者の“乙女の美”なんでしょうね。
 “乙女”は家や武のために狂うのではなく、男と女のためにこそ狂うから美しいのだと、そう言っているような気がします。
 しかし、いったいこの娘もどうなっちゃうんでしょうねぇ。


 一方伊良子清玄側は、栄華にうかれるわけでもなく、順調に新しい無明逆流れを編み出しつつある様子。
 パックリ割れた足の甲の間に、肉がググッと盛り上がって、既にして殺人兵器になっているのが凄まじいです。
 しかし足指の力に負けて木刀から手を離してしまってるのは、まだ完成形には至ってないのでしょうね。
 どうでもいいけど、裸で修行するのはヤメレ(笑)。

 そして、いくのほうですが、これはちょっと伊良子清玄との間に距離ができてしまうのでしょうか?
 いくの前で、清玄が三重のことを、

「いくさえいなければ己を婿に迎え入れ
 三百石を手離すこともなかったろう」


 という言葉に、いく、たじろいだ様子。
 清玄としては、いくはひとつの出世のステップに過ぎなかったのでしょうか。
 それは分かりませんが、いくとしては三重に嫉妬を覚えたのかもしれません。
 ラスト、いくは三重に銃口を向けます。
 これは、伊良子清玄に迫る勢いの藤木を暗殺しようとしたという心理もあるかもしれませんが、それより何より三重に嫉妬したんじゃないでしょうか。
 もしやして清玄の心は、いまだに三重のもとにあるのではないかという疑惑。
 どうでしょうね。

 しかし、いくは意外な人物と対峙することになる。
 それは他でもない、岩本虎眼そのひと!

「淫獣(けだもの)め やってくれた喃(のう)」

 ギャーッ!!
 鬼だーッ!!(笑)
 やっぱこの人が出てくるとこの漫画は締まりますね。
 しかしこれは幽霊というよりは幻覚でしょう。
 いくの中の脳内麻薬が呼んだ幻じゃないでしょうか。
 いくは、三重の言葉で己の中に眠らせていた“裏切り者の後ろめたさ”を目覚めさせ、取り憑かれたのでしょうね。
 そしてその同じ頃、伊良子清玄が3p状態ってのも実に対照的で面白い。
 虎眼の幻に恐怖するいくとは違い、伊良子清玄は虎眼の夢を見ないのでしょうか。
 ここまで一蓮托生とおもわれてきた伊良子清玄といくの間に、ちょっとした亀裂を感じてしまいます。


 底辺から這い上がる妄執のふたりと、頂点にありながらかすかに不協和音をさせるふたり。
 決戦前のドキドキと不安をさらにかきたててくれる、なにやら無性に恐ろしい一冊でした。


 その他印象的な場面。

・清玄の護衛の女、ダブル舟木千加?って思っちゃったけど違いますよね(笑)。
・打鮑を買えなかった三重。「かわりに三重の鮑で辛抱してくださいませね」 って妄想したバカはキミだけじゃないぞッ!
・清玄に診てもらえると思ったら峻安だった女性のヒキっぷりに爆笑。
・峻安の死に顔も凄いけど、馬渕さんの死に顔も凄まじいな。怨念がほとばしってますよ、この絵は。


 さて、次の巻ではどこまで話が進むのやら。
 早く御前試合が見たくてウズウズしてきましたぞ。



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posted by BOSS at 22:05| Comment(0) | TrackBack(1) | 漫画感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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Excerpt: 岩本虎眼のWikiはほとんど、シグルイの解説に近いものになっているような気がするが・・・ 慶長末から寛永のはじめにかけて濃尾一帯に名を知られた無双の達人。名古屋城下に道場を持ち、門弟は千人を超える。シ..
Weblog: 投資一族のブログ
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