2009年03月05日

コミック感想 ヴィンランド・サガ 7

 王とクヌート王子の、王冠をめぐる静かな戦いが始まった。
 『プラネテス』幸村誠が描くヴァイキング叙事詩コミック。
 緊張感みなぎる最新刊、第7巻の感想です。

過去感想→5 , 6

【ネタバレ注意!】




 神を許さぬと、天を睨むクヌート王子。
 キリスト教圏において天にツバ吐くこの言動は、実に刺激的ではありますが、その思いはとても純粋。
 誰よりも世のため人のためを思っての言葉なんですよね。
 神が人を愛さぬのならば、人が愛を体現できぬ不完全な創造物なのならば、愛などなくてもこの自分の手で理想の世界を築いてやるぞと。
 今風に言うなら、政治の腐敗、社会の混乱に抑えきれない怒りを燃やし、世直しに闘志をたぎらす純粋な若手政治家といったところでしょうか。
 そのための覇道ならば喜んで自分の手を血で汚しもするし、その道半ばで倒れたとしても本望だとでも言わんばかり。
 この超高温で燃える炎は見ていてとても気持ちがいいものです。
 クヌート王子、もう昔のあのボンボンの面影もなしですね。
 カッコよすぎです。


 スヴェン王との緊迫の謁見は、腹芸はほどほどに直接本題をぶつけ合っちゃうぶっちゃけさ。
 こういうところは、しゃなりしゃなりとした貴族趣味とはほど遠い、やはりヴァイキングの血の野蛮さというか、実際的なところなのでしょう。
 そんな一触即発の場面を言葉巧みにまとめあげてしまったアシェラッドはさすが。
 でも、そんなアシェラッドの思惑すらもあやうく飛び出してしまいそうなクヌートの大胆さがまた面白いです。


 軍団内の各部族長を落としにかかるトルケル。
 こういう人心を掴む事にかけては、アシェラッドのような何を考えているのかわからないタイプより、あけすけに腹のうちを割ってみせるトルケルのほうがピッタリ。
 大切にしてきた自慢の息子を殺されても、まだ子供はいっぱいいますからと、綺麗サッパリ水に流せてしまうヴァイキング魂は素直にかっこいい。
 ビョルンも言ってますね。

「バカ言え
 戦場での斬った斬られたは恨みっこなしだぜ
 グジグジ根に持つのはトルフィンだけだ」


 これがこの時代の男達なんですなぁ。
 でも、そんなヴァイキングの価値観もまた、アシェラッドは嫌っているのかもしれないですね。
 ヴァイキング魂的には異端児なトルフィンのことを唯一理解できるのは、実はカタキのアシェラッドだけなのかもしれませんね。

 しかし、ヴィリバルド神父の素顔にはドビックリ(笑)。
 この若さであの悟りっぷりは只者じゃあないですね。
 いったいぜんたいこの人にも何があったんでしょうか。
 ちょっとそのへんにも興味がわいてきましたよ。

 コーンヘッド一族弟、グンナル登場。
 あ〜、なんか激しくダメっぽいなこいつは。
 早晩弱気になって裏切ること請け合い。
 王子殿下がなんでまたこいつを信用して大事なことを相談するのか、ちょっとわからないくらいのダメッポくんだわ。
 いや、むしろコイツを泳がせて裏切らせ、裏切りの根を根本から断ち切るつもりなんでしょうかね。

 そしてもう一方の弱気裏切り者、アトリは田舎に帰ると。
 この、将来の裏切り者グンナルと、アトリ退場をならべたのは意図的な構図っぽいですよね〜。
 アトリ兄弟の裏切りがアシェラッド部隊の破滅を呼んだように、グンナルの裏切りがクヌートの破滅を呼ばなければよいのですが。

 毎度好例の敵討ち決闘……の前に、ビョルンがアシェラッドに決闘を申し込む。
 おお、これは意外。
 ですが、これぞ戦士の作法。
 このままダラダラと死ぬくらいなら、戦いの中で死にたいというビョルンに対する、アシェラッドの最高のはなむけといったところでしょうか。
 孤独なアシェラッドにもただひとりだけはちゃんと友がいたのかと、これはちょっと胸に来る話でした。
 剣をふり、ビョルンの血を払い落とすアシェラッドは、どこか不思議と苛立たしげ。
 それはトルフィンに対する苛立ちか、それとも友を失ったことからか、あるいはノルド人が大嫌いなはずなのに、典型的なノルド人ビョルンを友と呼んでしまった自分の矛盾からなのでしょうか。

 しかし、そんな苛立ちも戦いとなれば捨て去り、徹底的に冷静になれてしまうアシェラッド。
 トルフィンとは格がちがいますね。
 勝負の結果は最初から火を見るよりも明らかです。
 何度やっても感情的になる欠点をなおせないトルフィン。
 もうドツボです。
 やれやれ、まったくもって成長のない主人公ですよね〜。
 今ではアシェラッドもトルケルもどんどん活躍して、クヌート王子にいたっては完全に主役を食って株価急上昇中。
 ところが一方、本来の主役トルフィンはダメダメロードまっしぐら。
 こりゃもう早晩主役の座を王子に盗られちゃいますよ(笑)。
 表紙だって5巻6巻はかろうじてトルフィンが死守しましたが、今回はどうみたって王子が主役って表紙ですもんね〜。
 そろそろトルフィンもちったぁ勉強せにゃ。


 そして、王子暗殺未遂事件が勃発。
 これはまずもって最初からアシェラッドが仕組んだ芝居に違いないわけですが、いや〜クセモノですね〜アシェラッドは。
 自由自在に策を巡らせ、臨機応変に事態に即応してみせる策士っぷりはやはりタダモノではありません。
 というか、ここまでのスゲーやつであったのかとあらためて驚きました。
 こりゃほんと簡単にトルフィンが相手にできるタマじゃないですって。
 で、この巻の名言が登場。

「やっぱり王子殿下は女だったんだァ――ッ!!」

「なんかもういろいろえらいこっちゃ――――ッッ!!」


 自体の緊急性などどこ吹く風かってなこのユルさがたまらんです(笑)。
 女じゃないのかとは思ってましたが、いや〜私もすっかり騙されちゃいました。
 クヌート王子、いい乳してるぜーとか思った自分がいろんな意味で恥ずかしい(笑)。

 しかしこの策謀がいったいどんな結果を生み出すのかは、まだよくわからないってのが正直なところ。
 アシェラッドの思惑はいったいどこにあるんでしょうね。
 スヴェン王によれば、

「この町(ヨルヴィーク)に呪いをかけおったわ」

 ということですが。

 軍団内に不穏な動きがあることを白日の下にさらし、王につくか、それとも王子につくか、それぞれの将に立場表明を迫るという作戦なのでしょうか。
 なかなか楽しみな陰謀劇が始まりましたね。
 これは次の巻が待ち遠しい。


 一方トルフィンは、“暗殺犯”を殺害。
 どう見てもアシェラッドが仕立てた暗殺者を、口封じのために殺したようにしか見えないわけですが、クヌート王子がグリフィスならトルフィンもガッツといった按配ですね(笑)。
 アシェラッドにいいように扱われておりますよ。
 しかし、トルケルとの決闘がうわさになって“侠気”のトルフィン(トルフィン・カルルゼヴニ)なんて二つ名がついていたのは驚き。
 本人のヘタレ具合とは別に、名前のほうが先に一人歩きを始めたようです(笑)。
 まぁだから、トルフィンも相手がアシェラッドでさえなければそれだけの大したヤツなんですよね。
 問題は、アツくなっちゃう単細胞さと。
 なんかひとつ悟れないもんですかね〜トルフィンも。
 今回レイフさんと出会えた事でようやっと帰る道がひとつ示されたわけですが、それが逆にトルフィンを復讐に燃えたぎらせているようにすら見えて心配。
 なんかもう意地以外のものはなにも持ってない!って感じですもんね〜。
 トルフィンよ、いったいどこへ行く。
 プラネテスのハチマキも似たような感じで迷走しまくって、最後ひとつのものを掴んだわけですが、トルフィンにも何かつかめる日が来るんでしょうかね〜。
 ハチマキにとってタナベっていう存在が大きかったように、トルフィンにもそういう人が現われてくれればいいんですけど。
 はてさて。



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