あらたな時代への突入を予感させる 123巻 『風雲への序章』 の感想です。
ケイロニアの中枢を揺るがす大事件はひとまずの決着をみたようで、歴史はまた新たな章へと…。
ついに 「あの時代」 がやってきた!
過去感想→115 , 116 , 117 , 118 , 119 , 120 , 121 , 122
外伝感想→21
ネタバレ注意!
さらばシルヴィア
グインはついにシルヴィアとの決別をアキレウスに告白。
は〜、結局そういう着地を見ることになったか〜。
シルヴィアは光が丘に体のいい軟禁。
これは、まぁそうなるだろうなと。
女官たちは処刑。
これもまっとうな処置でしょう。
奇しくもシルヴィアの思う通りの結末ですよ。
パリスは……しかしどうなるんでしょうね。処遇は未定のようですが。
あの男らしい覚悟をみせてくれたパリスですから、その覚悟の行方は気になります。
シルヴィアは、外部的には 「病気」 ということにして、内部的にはやっぱりパリスを 「生贄」 として処理してしまうのが最もいいのではないでしょうか。
シルヴィアづきの女官を全員処刑なんてことをするわけですから、どうしたって宮廷内に噂が流れるはずです。
そういうときに備えて、「あ、御者が犯人だったのね」 と、憶測好きが飛びつきやすいネタを用意しておくのが最善じゃないでしょうかね。
グインはああ言ってますが、パリスもそれはもう覚悟の上というか、本望というものでしょう。
毎度のことですが、アキレウスがシルヴィアを諦めきっているのが辛い。
まぁ婿の手前、だらしないことばかりのシルヴィアを良くは言えないのはしょうがないにしても、まるでシルヴィアが生まれぞこないの悪い種であるかのように言うのはなんとも納得のいかないところがあります。
そのあと、やっぱりシルヴィアの性質の中には、アキレウス自身の弱い部分が伝わっているのかもしれないとフォローは入りますが。
しかし、もう捨てた子という扱いなのが辛いなぁ。
もう、アキレウスとシルヴィアという親子の間には、埋めることの絶対不可能な溝が出来てしまっているんですね。
犯罪者が 「社会が悪いのだ」「構造に欠陥があるのだ」「親が悪いのだ」 と言うのは私は許せる気がしません。
しかしこのシルヴィアに関しては、やはりシルヴィアも悪いことは悪いんですが、環境も悪すぎるよなぁと思わざるを得ませんよ。
もしも、母マライアと父アキレウスの冷たい家庭に生まれてなければ。
ちゃんと皇女教育がほどこされていれば。
暖かい女官たちに囲まれていれば。
世継ぎを産むための性教育、貞操教育がきちんとなされていれば。
夫がグインのような朴念仁でなければ。
グラチウスの陰謀によってキタイにさらわれていなければ。
あのタイミングでパロの内乱劇が起きていなければ。
そして、アモンによって夢の回廊に呼び出されなければ……。
「もしも」 など意味はないことはわかってはいますが、しかし事ここに至ってしまった理由の大半は外部的因子だよなぁと。
元来シルヴィアは勝手気ままで自堕落、快楽に弱い性質ではありましたが、しかしこんな不幸な運命でなければ、現代っ子ならどこにでもいるような、ただちょっと我がままな困ったチャンで済んだはずなのに。
そう、思わずにはいられません。
そういった事を考えないアキレウス(ただグインの手前言えないだけかもしれませんが)は、ちょっと親として毅然としすぎなんじゃないのかなと、どうしてもそう思っちゃいます。
たとえシルヴィアがああでも、それでもかわいいと思わずにはいられないのが人の子の親なのではないかと。
それでは、もしかしてアキレウスはシルヴィアのことを初めから愛していなかったのではないかと。
ひょっとすると、マライアが産んだ娘というだけで、初めから愛情をあまり抱けなかったのではないでしょうか。
そんな疑問すら浮かんできてしまいます。
いや、しかしたしかにシルヴィアはやりすぎましたね。
愛想が尽きるというのも、ちょっと頷けてしまいます。
獅子から豹へ
正式にアキレウスは引退宣言。
ついにグインがケイロニアの全権を握ったわけで。
『豹頭王の誕生』 ほどの衝撃と感動とはいきませんでしたが、凄く印象的なシーンがありました。
グインが人々に向かって剣の誓いをすると同時に、ワッと会場が爆発。
殺到しそうになる中、選帝侯と十二神将がババッと飛び出す。
これは劇的。
合図があったわけでもないのに一糸乱れぬ流れで、グインのまわりに二重の輪をつくり、さっと振り返ると今度は一斉にグインに剣をささげる。
まるで舞台劇のような見事な光景が目に浮かびました。
こういうところは、やっぱり栗本先生の舞台演出の経験が活かされているのかもしれませんね。
なんか、宝塚かファイブスター物語にでもありそうなシビレるシーンでした。
それも、若い騎士たちがやるんじゃなくって、けっこう歳がいってそうなアンテーヌ侯アウルス・フェロンあたりがやっちゃうんですから、なおさら渋くていいじゃないですか。
グイン改革とでも言うべきか、いろいろと改革が始まるようですが、それを評する名も無い宮廷人がいいですね〜。
ちょっと個性的なおじいさんのようですが、お前何者だよと(笑)。
名前がないのがもったいない。
ついに猫の年
ついに、やってきました。
運命の 「猫の年」 !
『七人の魔道師』 がついにやってくる!
30 年前に外伝で予言された物語に、ついに本編が追いつくわけですね〜。
本編でヴァルーサに会えるのも、もう時間の問題ですよ。
キタイ本国の内乱騒ぎにおおわらわだったヤンダル・ゾッグも、またぞろ中原に触手を伸ばしてくるのでしょうか。
激動の年の幕開けに心踊ります。
さてでは物語上は何年経っているのか調べてみると、最初の黒竜戦役が竜の年ですから、そこから蝶、蛇、狼、羊、虎、魚、山羊、鹿ときて、なんと 10 年目ということに!?
えぇっ!?
いや、それはさすがにどうなんだろう〜。
この暦は 『グイン・サーガ・ハンドブック』 に掲載されていたものですが、今でもこれが通用するのかが疑問なんですよね。
ネット上にもいくつかグインの歴史年表をまとめているサイトがあるのですが、どうにも 10 年計算だと矛盾が大きくなってしまうようです。
ここは山羊か鹿あたりの年はなくなりましたってことでいいんじゃないでしょうかね(笑)。
嫁に〜こないか〜♪
イシュトヴァーン、野望ふたたび!
俺は世界の王になる! と!
グインに刺され、アリストートスの悪夢によって目覚めてから突然善良な王様に化けちゃったのかと思いきや、これは実にいい方向に化けてくれました。
そうそう、それでこそ“乱世の奸雄”ですってば!
初期イシュトに見ていた、たぶんこんな物騒な王様になるんだろうなという想像図にだいぶ近い感じがします。
しかも以前のような、何も考えずただ戦いのみを求める猪突猛進さはなくなり、ちょっとズル賢い感じまで入ってきている。
これは面白い傾向だ。
今回この後半の会話シーン、いつもだったら 「また長い会話してるな〜w」 だったんですが、この変貌が面白くって、何度も読み返してしまいました。
イシュトも、このままじゃダメだと思ったんでしょうね。
環境適応能力というか、多重人格気味のイシュトですから、即座に歴史にも詳しくなっちゃって、にわか国際政治評論家っぽく語っちゃってるところが微笑ましいというか(笑)。
経済のことも考え、国際政治の駆け引きも考え、で、ゴーラの今後の事も考えて思いついたのは、パロを平和裏に併呑する事と。
「パロを手に入れてやろうじゃねえかってのさ」
イシュトヴァーンは、ついに、すべての本性をあらわにしたかのように、妖しくにやりと笑った。
このシーンが凄くいい!
バーンと背景が真っ黒くなって、イシュトの体表からメラメラと燃え上がるオーラが見えるようでした。
いや〜かっけえ!
そうだよ、イシュトはこうじゃなくっちゃ!
求婚を説明するイシュトの口ぶりから、なんともまた面白い成長をしたものだなと感心。
たとえ断られたとしても、それ自体がゴーラを世界に認めさせる契機にもなるとか、グインに負わされた傷のことを糾弾することで、ケイロニアに対して不平等条約を平等条約にすることもできるのではないかとか。
頼もしい。
なかなか考えるようになったじゃないですか。
イシュトのかます国際政治力学なんて、本当に詳しいカメロンから見たらまだまだ失笑レベルなのかもしれませんが。
しかしカメロンにとっちゃそれどころの話じゃない。
嬉しくもあり、空恐ろしくもあり。
ようやっと落ち着いてくれたかと思ったら今度は今までとはケタ違いの野望を持っちゃった訳ですからね。
いや〜カメさん、苦労が絶えないね〜。
しかし、ここへきてイシュト×リンダふたたびっすか〜。
さすがに成功はしないとは思いますが、パロにしてみればまたとんでもないイチャモンつけられた気分でしょうね。
返事をひとつ間違えればまた何をされるか分からない狂人でも相手にする気分でしょう。
丁重の上にも丁重に返事しないといけません。
ヴァレリウスの苦労も絶えませんわ。
今から長い愚痴を聞かされる予感バリバリですよ(笑)。
しかしこの求婚はどう考えても成功しません。
新生ゴーラに対する評価は、野蛮、非道などなど低いもので、パロにとってはもっとも毛嫌いするような国でしょう。
さらにカメロンの言うとおり、パロとしてはナリスを殺され、多くの同胞を殺され、マルガを破壊された張本人。
たとえばイシュトが 「あれはヤンダル・ゾッグによって後催眠をかけられてやったことだ」 と言ったところで納得できるものではないでしょうね。
ま、その後催眠を解いたのがパロの魔道士だったりするくせに、それを好意的に受け取らないのがまたねじくれたパロらしいところでもあります(笑)。
イシュト自身が後催眠をよくは理解してないから、そもそも主張することもないんでしょうけど。
ではどう展開するのか。
そこがまったく見えてきませんね。
イシュトの恋は応援してあげたいのは山々なんですが。
カメロンの、
「もしリンダ女王が、どうあってもお前との縁組は受け入れぬ、と拒みきったら、どうするつもりだ」
という質問に対しては、イシュトがうまくはぐらかしているもんだから余計に分からない。
そもそもイシュトのことだから、失敗したらその時はその時ってくらいにしか考えてないのかもしれませんが。
いや、この新しいイシュトは、その時のことも考えているのかな……。
むしろゴーラが勢力を伸ばすなら、ロス、タリアなどの、ゴーラ東側の自由都市を落としてゆき、沿海州と交易を開くのが先決じゃないかと思うんですが。
さらに昔はゴーラと国交の結ばれていたカウロスまでのルートを再度開くことで、ゴーラ、ロス・タリア、沿海州、草原と続く、長いゴーラルートを開発。
徐々にそれらの国々を併呑してゆき、パロを三方から絡めとるように弱体化させ、ついには併呑することも可能になるのではないかとか、そう考えるんですけどね〜。
ちょっと遠大すぎるかな。
久々にいろいろ考えさせられちゃう重大な転機ですな〜。
ところで、夢に出てきたナリスは、さすがに本人の幽霊ってことはないよなぁ。
パロを愛するナリスがそんなことを言うはずがない。
またぞろグラチーあたりが変なことをしてきたんじゃないかとか、そんな胸騒ぎが……。
スーティ、ついにイシュトに知れる
うおーいイシュト、フロリー忘れてたんかい!
ちとショック(笑)。
つか、フロリーについては記憶を封印してたんですね〜。
そう思うとまた不憫ではありますが。
さぁついにイシュトが、フロリーと、スーティの存在について知ってしまいました。
なにやらイシュトがひらめいてしまったようですが、どんな陰謀なんだか期待せずにはいられませぬ。
息子を返せと難癖をつける口実でパロへ向かい、その会見の席上でいきなりリンダに求婚してみせるドッキリ演出に使うのか。
あるいはパロにスーティ養育を依頼し、そのかわりとしてなんらかの要求をパロに突きつけるのか。
ここは新らしいイシュトがどう出るのか楽しみ楽しみ。
既にフロリー・スーティ親子はヤガについている頃とは思うのですが、パロとしてはどう出るでしょうね。
知らぬ存ぜぬで応対したら、イシュト・ゴーラがまたどんな危険な態度に出るかわかりませんから、パロとしてはこれまた慎重に対応しないと。
ヴァレリウスなら、触らぬ神になんとやらと、嘘をつくよりは真実を伝え、スーティをゴーラに返してしまったほうが一番と考えるでしょうね。
ただ、憂慮されるのはグインに恨まれること。
ヨナは反対するんじゃないかなぁ。
それより当面楽しみなのは、スーティとイシュト対面がなるのかならないのか。
そしてイシュトがどう反応するか。
今のイシュトなら、あのドリアンへの激烈な拒絶反応のようにはならないでしょうし、むしろ目の中に入れても痛くないほど可愛がるんじゃないでしょうか。
それはしかし野望の上での打算のようなものかもしれませんが。
スーティはしかし、聡明にイシュトの事を嫌っちゃうかもしれませんね。
「おじさん、わるいやつだ!」
とか言って(笑)。
しかもグインのおじちゃんの事を崇拝しまくってるものだから、それがイシュトの勘にさわるかもしれない。
うーんとってもスリリング。
でも聡明すぎるスーティとの触れ合いは、結果的にイシュトにとって凄くプラスに働くんじゃないかなぁ。
会わせてあげたくなってきた。
ブラン生きてた!
また、見逃せないのがブランの帰還。
あやうくヴァレリウスあたりに殺されるか、あるいは眠らされるんじゃないかとビクビクだったのですが、薬を盛られてお腹を壊すだけで済みました。
えがったえがった。
しかし彼の帰還は、ゴーラにとってとても大きな情報をもたらします。
ひとつはスーティの将来有望な資質ですが、なにより大きいのが、「グインの記憶喪失」 という決定的な事実です。
これによってイシュトが抱える違和感への疑問も氷解することになるでしょう。
以前でしたら、それで何が変わるでもなかったのですが、今のイシュトは狡猾です。
この記憶喪失を上手く利用してやろうと、そう考えてしまうのではないでしょうか。
ありもしない事実をでっちあげ、グインに難癖をつけるくらいしてきそうな流れですよ。
今はまだケイロニアと戦端を開く気などさらさらないイシュトですが、条約を有利に進めたり、パロとのいざこざについてしばらくケイロニアを黙らせるくらいは充分やりそうです。
またまた不穏な火種が生まれることになりそうです。
しかしさらに混乱要素としては、イシュトがこれで把握するグインの記憶喪失と、実際今グインが喪失している記憶とがまったく時期が違うってことですね。
いったいどんな展開になることやら。
またこれはちょっと未確定ですが、フロリーがタリク大公に言い寄られたことが、もしかするとブランの耳に入ってないでしょうか。
私の記憶違いでなければ、直接誰かがブランにその情報を伝えた経緯は描かれてないはずですが、もし入っていたら、これまたちょっとした火種になりかねません。
なんせ、ゴーラ王の女に手を出そうとし、さらには殺そうとまで(自分の意思ではないとはいえ)してしまったわけですからね。
イシュトにしてみれば、多少強引ではありますが、これまたクムに対して賠償請求でもしかねない流れじゃないでしょうか。
いますぐでなければ、いつかそれを理由に侵攻でもしかねませんて。
まとめて
いやいや、今回は面白い!
ドラマこそ進展せず、読む人によっては退屈な一冊だったかもしれませんが、私のような予想屋にとってはなかなかたまらないものがある巻でした。
イシュトファンとしても、この大きな変貌は楽しくってしょうがないですしね。
しかし、123巻まできてようやっと三国時代の幕開けかい! と(笑)。
グインが実質上ケイロニアの全権を握り、イシュトが本当の意味で野望に向かって歩みだしたわけで。
そういった意味で、あとがきで言われているとおり、「本当の戦いはここからだ!」 ってヤツですね。
あ、やばい。この言い方はジャンプの有名な打ち切りワードだ(笑)。
せっかく本番に入ったんですから、栗本先生、まだまだ頑張ってくださいよ!
ここからじゃないですか!
▼関連記事
・アニメ 『グイン・サーガ』のスタッフ発表
・読書感想 グイン・サーガ 122巻 豹頭王の苦悩
********************************************************
よろしければランキングにご協力をお願いします。
にほんブログ村
********************************************************
よろしければランキングにご協力をお願いします。
にほんブログ村
********************************************************
いや、本当に今回のイシュトは嬉しかったですねぇ。
どこか狂気を孕んだ様子はあるけれども、けれどもその子供じみた狂気あってこそのイシュト。
イシュトの野望はわくわくさせてくれるものがありますよね〜。
できればスーティをイシュトに会わせてあげたいです。
きっとその存在はイシュトをより強い男に成長させてくれるのではないでしょうか。
ほんと勝手なものです(笑)。
色々と想像を膨らませてくれる、わくわくの話でしたね。