2008年08月02日

コミック感想 PLUTO−プルートゥ− 006

 浦沢直樹が漫画の神様手塚治虫鉄腕アトム『地上最大のロボット』を元にして描く、サスペンス SF 大作プルートゥ第6巻
 いよいよ真相に迫るゲジヒト刑事。
 だがそのとき…!…
 盛り上がりまくりでクライマックスも近い?

過去感想→005

ネタバレ注意!




 ゲジヒト刑事はペルシャでアブラーと会うも、さしたる情報も得られず。
 しかしそこで会った花売りの子供ロボットから重要な証言を得、ゲジヒトはついにプルートゥの正体に迫る。
 意外なスピーディさでプルートゥの正体が明かされてびっくり。
 もっとひっぱるのかと思っていたのでこれは気持ちよかったですね〜。

 戦争で恨みを抱いたアブラーのため、サハドはプルートゥにさせられたと。
 もとは花を愛する優しい学生ロボットが、アブラーの怒りを注入されて破壊の神になったということでしょうか。
 とすると、サハドこそが天馬博士がつくったという 「完全なロボット」 なんでしょうか。
 60億の人格を入れられ、永遠にシミュレートし続けて起きることが出来なかったロボットに、花を愛する心を注入されて作られたのがサハドで、怒りを再注入されたのがプルートゥと、そういうことなんでしょうか。
 このへん読み込みがまだ浅いかも…。

 サハドに、頭脳をプルートゥに貸してくれと言うアブラー、ほとんどロボット化してこれは恐怖。
 ロボットのはずのサハドのほうが人間的で、人間のはずのアブラーのほうが機械的に描かれる皮肉。
 いや、もしかするとアブラーはこのとき隅から隅までロボットになっているのかもしれませんね。


 ところでゴジというのが人の名前ではなく、伝説の砂の賢者とよばれる古代ウズベクの言い伝えだったようです。
 つまり、これはアブラーのもう一つの名前っていうことでしょうか。
 謎の巨大ロボットが発した 「ボラー」 という言葉を、アブラー配下のロボットも使ったことから、ボラーもアブラーに繋がっているようですし、全てはアブラーに繋がるのかもしれませんね。
 錯綜していた謎が、徐々にひとつによりあわされてゆくようです。


 しかし、数々の謎が明かされてゆくのもさることながら、この巻はなんといってもゲジヒトが…!
 繰り返し夢に出てくる 「500 ゼウスでいいよ」 や、消されたメモリーの謎がついに明かされました。
 ゲジヒトには養子ロボットがいたんですね〜。
 その子をアドルフの兄に殺された憎しみで、ゲジヒトは殺人を犯してしまったのでしょう。
 「一体 500 ゼウスでいいよ」 は、具体的には示されていませんが、たぶんバラバラにされた子供の部品を、回収業者が売ってくれようとしたんじゃないでしょうかね。
 そうだとすると、死んだ子供がクズ鉄としてしか扱われないなんて、ゲジヒトはとてもやり場のない怒り、悔しさを覚えたことでしょう。
 哀れすぎる。
 「歩いたわ…… ゲジヒト………」 は想像に過ぎませんが、養子にもらわれてきた当時、子供は歩行機関に重大な欠陥があったんじゃないでしょうか。
 その子をゲジヒトと妻のヘレナは愛情深く面倒を見ていた。
 アトムがゲジヒトのメモリーを覗き見て涙を流したのは、おそらくはその光景をすべて見てしまったのでしょうね。
 消されていたはずのメモリーで、ゲジヒト本人ですら認識できなかったものを、アトムの超高性能な頭脳は認識してしまったのでしょう。
 あ、そういえば殺人ロボット・ブラウ1589 も、そのことに気づいていた様子がありましたね。
 ヤツもかなり高性能って事になりますね〜。


 そして……ゲジヒト、殉職!
 なんと1巻からずっと主役として頑張ってきたゲジヒトが!
 この漫画では殺されたロボットは修理すれば復活するものではなく、人間と同じく死んでしまいますので、これはゲジヒト本当に死んだ!!
 いや〜驚きました。
 なんと悲しい死か。
 失われていたメモリーに気づいた瞬間の死。
 なんともやるせないものがあります。
 しかし、殺人という罪を自覚してしまったゲジヒトは自分を裁かずに入られなかったであろう事を考えますと、過程はどうあれ殺されることにどこか満足していたかも…しれないなぁ…。
 でも、あの大切なヘレナを残してゆくことを考えると、やっぱりやるせない。
 彼らの間には、ロボットとはいえ本当に愛がありましたね。
 死の直前、立体映像で会話しながら手を触れ合おうとしてスッと透けてしまうのが、なんともすばらしい名場面。
 彼らの愛を表現しつつ、死の予感までさせる、胸の締め付けられるシーンです。
 でも、なんだかとってもあったかい。
 ゲジヒトも、ヘレナも、互いを思いあう本当にいい人たちだ。
 人じゃないけどもうこれは人って言っていいでしょう。


 膨れ上がる悲しみに耐えながら、気丈に明るくふるまうヘレナがとても美しく、笑顔が悲しい。
 ヘレナのドイツ人らしい鼻筋あたりがとてもいいですよね。
 いや〜、綺麗なひとだ。
 浦沢直樹はやっぱり外人を描くのがうまいなぁ〜。


 天馬博士登場。

「泣いてごらん。
 そんな時は、人間は泣くんだ。
 そう……
 最初は真似事でもいい。」


 天馬博士に導かれるように、号泣するヘレナ。
 天馬博士も、アトムを失った悲しみを表す。
 感動的なラストです。

 おそらく、ここでヘレナから天馬博士に手渡されたゲジヒトのメモリーが、アトムに注入されることになり、物語はアトムへと受け継がれてゆくのだと予想されます。
 それによって方向性をインプットされたアトムは目覚め、ゲジヒトの思いを遂げることになるのでしょう。
 はたしてアトムがどのような覚醒をとげるのか、とても楽しみでもあり、ちょっとスリリングでもあり。

 ですが、一連のこのロボットたちのドラマを見せられてそれ以上に考えさせられてしまうのは、でははたして人間とはなんなんだろうってことです。
 ロボットたちは、本当の 「心」 を手に入れはじめているようにか見えません。
 最初は真似事でも、しだいに真似事を越えて、花を愛する心や、悲しみや、愛や、そして憎しみまで、およそ人間でしか理解できないはずのものを真に身につけ始めているようにしか見えないじゃないですか。
 じゃあそもそも愛や悲しみや憎しみって、いったいなんなんだろうって考えちゃいますよ。
 言ってしまえば人間ってなんなんだろうって。
 あらためて考えてみれば、どんな人間も、生まれたときからそういったものを自然に持っているわけじゃないのかもしれませんね。
 人間だって、「真似事」 から 「心」 を手に入れているのかもしれません。
 単純に、笑ったり、怒ったりは赤ん坊でもできますが、人を大切に思う心や、奪われたもののために相手を憎む心、弱いものを守りたいと思う心、美しいものを愛しいと思う心は、最初は真似事から学んでゆくものなのかもしれませんね。
 いや〜、難しすぎてよくわかりませんが、プルートゥという漫画、なかなか深い。


 凄い濃い1巻でした。
 明かされるプルートゥの正体。
 失われた記憶。
 ゲジヒトの死。
 読み応えばっちりでしたね〜。
 いや〜面白かった。
 あと、凄く印象的だったのがアブラー配下のゴキブリブレス!!(爆)
 あれは最悪だ!!


 さぁ次は、世界最高の7体のロボットの中で最後に残されたエプシロンの戦い。
 ここまでほぼ1巻1人ペースで順調に破壊されてきたわけですが、はたしてどうなるのでしょうか。
 予告では、エプシロンがプルートゥの破壊に成功するようですが…?
 どんな展開が待っているのでしょう。
 これは次も楽しみです!



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