ひっさびさのケイロニア編!
表紙は、表紙初登場のランゴバルド侯ハゾス・アンタイオス!
雪景色をバックに爽やかモデルポーズ(笑)。
しかし内容はうってかわって×××××!
シルヴィア皇女はどうなっちゃったんだろうとドキドキひやひやで、ページをめくるのがとっても怖い121巻の感想です!
過去感想→115 , 116 , 117 , 118 , 119 , 120
外伝感想→21
ネタバレ注意!
マリウスグッジョブ!
別れの言葉のドサマギで「スーティ」の名前をグインに言っちゃったのは超ファインプレイ!(笑)
おかげでグインの記憶がちょこっとだけ揺り動かされたみたいです。
これが後々、グインとスーティの運命をいい方に動かしてくれることになったら嬉しいなぁ。
そしてまたそれが、この巻の後半でグインにある決心をさせる伏線にもなっていたりして、いやぁあいかわらず上手いなぁ栗本先生(笑)。
子を殺すことは絶対にだめだと拒否するグインの根底には、スーティや、あのケス川の地獄のような光景のかすかな記憶の残滓があったと。
それでは、まったく記憶が消えてしまったわけではない。
あの冒険は無になってしまったのではないのだという、かすかな希望のようなものが見えてくるじゃないですか。
そしてまた、グインもあの長い旅を経ることで、ちょっとだけ変わったのだと。
でも、ちょっと気になったのは「我が子の仇をとろうと切りまくりはじめる」というグインのセリフですねぇ。
もしかして、ケス川の話じゃない?
アキレウス大帝、一瞬で復活(笑)。
「何をいう、グイン。このわしを寝たきりの病人扱いいたすのか」
って、アンタまんま“そう”だったじゃないか(笑)。
あまりの超回復っぷりで、これもまたグインの超パワーのせいなのかもだけど、それ以前にアキレウス大帝もグイン依存症なんじゃなかろうかと(笑)。
ちょっと涙を誘われるシーンながらも、なかなかほほえましいエピソードでした。
赤の他人の男と男が、まるでほんとうの父と子であるかのように結ばれるなんて、ほんと奇妙で奇跡のような縁ですねぇ。
それこそ前世は親子だったんじゃないでしょうか。
いやいや、ほんとサイロンに平和が戻ったようで良かった良かった。
アンテーヌ侯アウルス・フェロンはじめ、名だたる貴族将官を相手に己の記憶障害を語るグイン。
この正々堂々とあけっぴろげなふるまいが、実にグインらしくて頼もしい。
普通の支配者であれば、自分の「危うさ」を隠し、虚栄をはってしまいそうなところですが、グインは逆に自己の「危うさ」を隠すことなく手の内を見せてしまうことで、逆に絶大な信頼を勝ち得てしまうんですね。
グインも、やるときには情報操作もしますし、あえて汚い手も使いますが、ですがこと人と人との信頼といった面においては、あえて隠さないことをモットーとしているような気がします。
なかなか普通の人には真似できないことです。
グインはしかし自信があるから言うのではなくて、後々絶対に後悔しないために言っているんじゃないでしょうかね。
今相手をたばかり、後々それがバレて後悔するようなことになるくらいなら、あるいは、バレなくともそれを胸に抱えてずっと後ろめたい思いをするくらいなら、今言ってしまわなければならない。
後悔しないためにあえて言う。
やっぱりスゲー奴ですグイン。
こういう場面が出てくるたびに、他の人物とはやっぱり格が違うと思い知らされます。
そしてこういうグインだからこそ、周囲のものはひきつけられ、絶大な信頼を寄せるようになってゆくのでしょうね。
と、まぁ安堵にひたれる前半なのですが……グインも読者も間違いなく気になって気になってしょうがないのは、そう、シルヴィア。
どんなハッピーなシーンでも、どこかシルヴィアのことが気にかかってかかってしょうがない!
中盤、王妃宮に踏み込むあたりから、うってかわってこれはホラーかサスペンスか(笑)。
グインも言ってますが、どこぞのゾルーディアへでも迷い込んでしまったのかという、あまりにあまりな展開に読むこちらもオドオド。
ええっ!? シルヴィアどんなんなっちゃったの!?
そして暗闇の寝室に、文字通りスポットが当てられるひとコマ。
いやぁ、私にはここ、凄い映像的に見えちゃいましたわ。
栗本文学はたまにこういう強烈に映像的なひとコマがあるんですが、ここも間違いなくそういうシーンでしたね。
最悪の事態ですねぇ。
いやぁあまりに暗澹たる展開に、ハゾスじゃないですが気分が悪くなってしまいます。
正直、どう受け止めていいんだかちょっとわかりかねますよ。
グイン・サーガの女性キャラのなかで、もっとも好きなキャラ・ナンバーワンがシルヴィアと豪語していた私だけに、これはショッキングという言葉もたぶん妥当ではないです。
言葉をなくすってのはこういうことかってのが、今の気持ちですわ。
想像していた「最悪の事態」を軽く三段跳びで跳び越えられてしまいました。
私が想像していたのは、グインが踏み込むと、そこにはシルヴィアとパリスが……、ってなレベルのものだったのですが……。
まさか誰のことも分からない子を孕み、汚物だらけでひきこもりとは、ここまで壮絶な事態は想像を絶しています。
これまで、記憶を失って放浪している時間は「半年」という描写がされていましたが、ここへきて、グインがケイロニアを発って今回帰ってくるまでのあいだに「一年」が経っていたという表現に変わっていたので、あれ? そんなに経っていたんだとちょっと驚いたのですが。
そうですか、なるほど、そういう理由で「一年」ですか。
栗本神も残酷なことをなさる。
そこからハゾスが追及をはじめ、クララやシルヴィアの口から明かされる目を覆いたくなるような真実。
ここはもう、放心状態で読んでいましたよ。
「シルヴィア、なんとまぁ、なんてことをやらかしちまったんだ」という思いもありますが、そうなってしまう素養、下地はすでに何度も何度も描かれていたのだなぁと、改めて思い返せば納得させられてしまうしかないじゃないですか。
なんとも、やりきれないったらありゃしない。
父親が誰かもわからないというのもまた、シルヴィアひとりに罪を着せるかのような運命のしうちです。
まるでなにもかもがシルヴィアを指差し、糾弾しているかのような恐ろしい展開じゃないですか。
悪いのは、いったい誰なんでしょうか。
皇女でありながら、その自覚のなかったシルヴィア?
それともシルヴィアにちゃんとした帝王教育をしなかったアキレウスとマライア?
それとも拉致し、身体と精神を破壊したユリウス及び首謀者グラチウス?
あるいは、シルヴィアの心の支えとなろうとしながら、結局一年も放っておいたグイン?
それとも、最後の引き金となった、天幕での夢の回廊の悪夢を見せたアモン?
ハゾスはシルヴィアが一番悪いのだと言い切りますが、私はなんとも言い切れないなぁ。
皆それぞれが少しずつ綱に切れ目を入れていったのではないでしょうかね。
最後にロープに致命的な切れ目を入れたのは、スナフキンの剣を振り下ろしたグインかもしれないけど、でもそれまでの切れ目がなければ、シルヴィアもあそこまではしなかったはずです。
恨むべくは、あまりに悲惨で残酷な運命なんじゃないのかなぁ。
シルヴィアも、凶行というか狂行に及んでしまった動機というのは、やはりグインに捨てられるかもしれないという恐怖があったからなんでしょうね。
それを思えば、哀れといえば哀れと言えなくもないと思うのです。情状酌量の余地は、あると言ってあげたいんだなぁ。
音楽教師にたぶらかされ、部屋に招き入れるという馬鹿をやらかしたおかげでキタイに連れ去られ、さんざん弄ばれてしまったシルヴィア。無事サイロンに帰ってからも、まわりには味方など誰一人いなかった。
大人なケイロンの人々は、そんなシルヴィアを丁寧に礼儀正しくあつかうけれども、シルヴィアにはそのうわべの下に、質実剛健なケイロン人ならではの軽蔑のまなざしを感じ取らずにはおられなかったでしょう。
そういう身も蓋もない、非常に感じやすいところがシルヴィアの美点であったはずです。
アキレウスひとりは、絶対どんなことがあってもシルヴィアを見捨てることはないし、愛が薄れることなどこの世の終わりがきたってないはずですが、しかし、シルヴィアからしてみれば、そんなアキレウスも今はオクタヴィア姫がおり、かわいいマリニア姫ができてベッタリ状態。
父親を取られてしまったと思っているに違いないのです。
そうなってくると、もうグインひとりしかいないんですよね、シルヴィアにとっては。だからこそ、グイン出立の日にあれだけ狂ってみせたのですが。
ところが、あの夢の回廊の悪夢です。
シルヴィアの感受性なればこそ、本当の夫であることがわかったのでしょうね。
シルヴィアも信じたくはなかったことでしょうが、でも斬られてしまった。
彼女にとっては、もうグインしかすがって生きる人もいないというのに、そのグインに斬られてしまっては、もうどうしようもありません。
やってしまったこと、そしてたどり着いてしまった結末は、あまりに猟奇じみていて、狂気としかいいようのないことでしたが、そのシルヴィアの心の痛みは、なんだかよくわかる気がします。
シルヴィアは自己破壊の欲求にかられて、自暴自棄に、まるで自殺願望にとらわれるように男達に身を投げ出したのではないでしょうか。
だからこそ、パリスに身を任せたとき、
「本当にあたしのことを好いてくれてるみたいな気がして、怖かったの……」
となったのではないでしょうか。
大切にされて、愛されてしまうと、自分と向き合わなければならなくなってしまう。それがシルヴィアには恐怖だったのではないでしょうか。
到達してしまったのはおぞましい事態でしたが、同時にいたましくてしょうがない。
どんなことになろうと、グインはシルヴィアを見捨てられないのでしょうが、同様に私も、そんなシルヴィアをあわれで見捨てることができませんよ。
とりかえしのつかないことをしてしまったし、シルヴィアが処刑されてもしょうがないというのは重々承知なんですけどね。
また、この巻の冒頭、リンダの口から 「本当はこうであれたらよかったのにと言いたくなるのは誰だってそうだし、だからマリウスだけが被害者面してそれを主張するのはおかしい」 というような内容のセリフが出ているのがまた手厳しい。
シルヴィアも、周囲の状況や何か一つ歯車が違えば、こんなことにはならなかったでしょう。
でも、それを言ってもしょうがないんだと、このリンダの言葉はわたしたちに突きつけているような気がします。
そんなことを言い出したら、みんなそうなんだと。
そんな世の中だけど、みんな痛みを抱えながらがんばってちゃんとやってるんだと、リンダは言いたいのかもしれません。
なんとも、シルヴィアには耳の痛い言葉じゃないですか。
そしてまた、シルヴィアの運命を思うと残酷だなぁと思わずにはいられない私にとっても、耳の痛い言葉です。
ならば、シルヴィアが悪いと思うしかないじゃないですか。
実際、そうなのかもしれませんね。
皇女という身分でありながら、いつまでもそれを全うすることから逃げ続け、否定し続けた罰かもしれません。
なにもかも悪いのは周りだと責任を転嫁し、自分が努力する事を放棄してきた罰かもしれません。
それにしても、なんと重い罰かと、そう思うのです。
それが、ケイロニア皇帝家に生まれたものの宿命なのかもしれませんが。
いやぁ〜、なんとも壮絶だ。
グイン・サーガはやっぱり凄い。
しかし、この事件はいったいどのように展開してゆくのでしょうか。
いわば今回の事件は、終わった事件の後始末です。
すでに大事件であることにはかわりませんが、さらに発展して物語が展開してゆくには、それこそ生まれた子供が成長してからでなければなりません。
グインが反対している以上、この子が殺されることはないのでしょう……ところでこの子、絶対男児ですよね。
シルヴィアはどこぞに幽閉されるなり、療養といつわって離れた小城にとじこめられるなりすることでしょう。
パリスは、ハゾスによって罪を着せられて処刑されるのでしょう(ここのハゾスもなかなかパロ人みたいに陰謀家じゃないですか!)。
そう順当にいってしまうと、物語はそこで終息してしまいます。
それじゃぁ話として盛り上がりませんよね!(ヒド!)
これが、のちのち大事件の発端となるとしたら、それこそ昔から噂されているトロイア戦争勃発でしょうか。
“パリス”とは、トロイア戦争の引き金となった王妃誘拐事件を引き起こした王子の名前なのです。
私には、パリスがシルヴィアをかっさらってイシュトヴァーン・ゴーラに逃げ込むことくらいしか思い浮かばないのですが、今のこの状態ではそれもどうも考えにくいですよね。
3巻の冒頭で示された、グインの妃が 『売国妃シルウィア』 と呼ばれるようになるという予言は、はたしてどのようにかなえられるのでしょうか。
今もうすでに、シルヴィアはケイロニアの光を闇に売り渡しているという意味では充分に実現しているとも思えるのですが。
はたして、これからどんな展開を見せてくれるのか。
まったくもって目が離せません。
そしてまた、栗本薫先生!
こんな超展開やっといて、いいところで死ぬなんて絶対許しませんぜ!!
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